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【不朽の名作】忠臣蔵と四谷怪談を組み合わせた意欲作「忠臣蔵外伝 四谷怪談」

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パッケージ画像です。

 今回は1994年公開の忠臣蔵と四谷怪談を組み合わせた全く新しい時代劇、1994年公開の『忠臣蔵外伝 四谷怪談』を紹介する。

 忠臣蔵といえば、数えきれないほど舞台化や映像化されている時代劇の定番。一方、四谷怪談もお岩さんでお馴染みの怪談としてはこちらも定番作品となっている。この2つの作品を組み合わせる大任を担ったのは、深作欣二監督だ。

 ちなみにこの作品、松竹誕生100周年記念作品でもあり、当時から100周年にこのチョイスはどうかしているという意見もあったが、「第18回日本アカデミー賞」では最優秀作品賞を始め、数々の賞を受賞するなどして話題となった作品だ。

 内容としては、かなりわかりやすい、忠臣蔵に怪談の要素を入れたような状態だ。トンデモな設定満載でありながら、作品としてのまとまりはかなりよく、さすが、このタイプの作品を数々こなしてきた深作監督といった状態となっている。

 内容としては、浅野内匠頭が刃傷事件で切腹した後、討ち入りしようとしている元赤穂藩浪士の中に、四谷怪談ではお岩(高岡早紀)を斬殺したとされる民谷伊右衛門(佐藤浩市)がいるという設定になっている。また、お岩と結婚した後、原作では重婚の相手となっていたお梅(荻野目慶子)が、赤穂藩と遺恨のある吉良家とつながりのある人物という設定が追加されており、伊右衛門が望む望まないに関わらず陰謀に巻き込まれていく。

 血しぶきの演出や、ゴア表現、さらに高岡のもろだしオッパイと、怪談話として抑えておくべきエログロはしっかりしている。だが、一方で大石内蔵助(津川雅彦)ら赤穂浪士が討ち入りに向けて、真面目な論議をしており、シーンごとの見所が大きく変わる形となっている。珍妙な作品であることは間違いない。お梅やお槇(渡辺えり子)、伊藤喜兵衛(石橋蓮司)などは明らかに悪役とわかるように、顔には白粉をぬっており、シーンのほぼ全てで不気味な挙動を取る役どころとなっており、正直気味が悪いレベルだ。こっちの方がどうみても怨霊…。ラストはSFモノかと思うほど思い切った演出。ノリは角川映画に近いかも。

 四谷怪談とはいっても、お岩の怨念こそあるものの、その怨念は伊右衛門というよりは、主に吉良家の侍に向けられる。まずこの作品では武家の子女として描かれているお岩が娼婦として登場する。伊右衛門がお岩からお梅に乗り換えた状況も、邪心こそあったものの、相手の陰謀に巻き込まれた部分もあるということで、そこまで咎められない。お岩も伊右衛門に落ち度はあるが、諸悪の根源は吉良家の家臣であると確信しており一応勧善懲悪のような形で話は進んでいく。

 ただ、お岩は原作のように呪殺という回りくどい手段はあまり取らない。四十七士の討ち入りに“幽霊”として参戦し、幽霊の謎パワーで清水一学(蟹江敬三)らを吹き飛ばして倒すなど、かなりの力技で恨みを晴らしていく。荒っぽい展開だが、それまで「四谷怪談」と「忠臣蔵」の別のストーリーラインで動いてきた2本の話が、ここでまとまるようになっており、おそらく尺を無駄に使って呪殺するよりはかなりわかりやすい終わり方となっている。また、伊右衛門にも救いがある描写が用意されており、そういった意味でもこの作品は斬新だろう。

 完全にネタ方面に振り切った、シーンばかりになりすぎない点も、この作品が評価されている理由かもしれない。内蔵助は、この当時、他の映像作品にも使われていたが、討ち入りに慎重な考えを持っており、浪士の心情を理解しつつも、巧みにコントロールして諫めることが多い立場となっている。

 加えて終盤、自身の野望が破滅した伊右衛門が、吉良家の家臣に内蔵助を切れと命じられ、襲おうとした際のやり取りでは、内蔵助のセリフで、この物語に深みを与えている。内蔵助はこの討ち入りが歴史的な出来事として残ることや、後の世で、浪士たちも忠臣として尊敬を集めることを確信しており、途中で浪士から抜けた伊右衛門を憐れむ。このことで、四谷怪談パート側の登場人物である伊右衛門に、「赤穂浪士になれなかった男」という、忠臣蔵パートでの歴史に残らない側の重要な人物としての役割を与えており、ラストのシーンでの関係性をより強いものにしている。

 しかし、アクションシーンが少なかった部分は若干の物足りなさが残るかも。討ち入りのシーンで、角川映画で同監督作品の『里見八犬伝』くらい振り切ったアクションを見せてくれたらなとは感じる。討ち入りのシーンはお岩が中心になっているので、基本傍観して、自身の死にかかわっている人物を見つけたら吹き飛ばすという形で、他の忠臣蔵作品のように屋敷内での攻防はあまり描かれない。とは言っても『四十七人の刺客』のような吉良邸障害物競争のようになっても困るが。そういえば、同作と『四十七人の刺客』は同時期の作品だった。公開前は『四十七人の刺客』の方が注目度が高かった気がする。公開された後は両作ともあの設定で「どうしてこうなった!?」という状態だったが、もちろん言葉の意味合いが、両作で全く違うが…。設定だけで判断すると同作は完全にネタでしかないと思われがちだが、意外としっかりした、現在でも新しいと言える忠臣蔵作品になっている。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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