松坂は西武ドームで特大の本塁打も放ち、身体能力の高さもアピールしていた。松坂もトライアウト後、報道陣に囲まれた。
−−トライアウトを終えた今の心境は?
「できれば、西武でずっとやりたかったんですけど…、今は『よし、見取れよ』って。もちろん、感謝もしていますし、次に(次の球団に)行って、見返してやりたいと思います。西武のおかげでここまで出来た土台があると思っていますし、今度は『(次の球団で)ここまで出来ました』という報告がしたい。それは、物凄くたいへんなことだって分かっていますが…」
−−今日は自分をアピールできたか?
「もう、怖いものナシっていうか、落ちるところまで落ちたんで…」
−−戦力外通告を受けたときの心境を改めて教えてほしい…。
「1週間は気持ちの整理ができなくて…。トライアウトも『もういいや』って思ったときもありました、正直…。でも今日、トライアウトを受けてみて、やっぱり、野球は楽しい。野球は楽しいって分かったのがいちばんなんじゃないですか」
−−今日まで、練習はどこで? 実家に返っていたのか?
「いや、こっちにいましたよ。練習は午後5時以降…。みんな(古巣の同僚)の前でやるのが恥ずかしかったし、気を遣わせるのも嫌だったんで、1人で。1人でマシンやネットを使って」
「実家に返っていたのか?」と質問したのは、一部で「練習していない。行方が分からない」といった報道が流れたからである。それを確認するための質問だったわけだが、1人で練習していたなるコメントに、彼は立ち直ったと確認した者も多かった。
松坂は走攻守3拍子揃った逸材で、かつては「渡辺(久信=45)監督のお気に入り」とも称されていた。そんな松坂が戦力外となった理由は、「送球難によるイップス」だという。また、大久保博元・前コーチとの衝突も指摘する声も聞かれた。トライアウト当日、遠投を要する守備機会はなかったが、内野手に返球する様子を見る限りでは“解消”されたのではないだろうか。松坂が囲み取材で繰り返し語っていた言葉は「野球はやっぱり、楽しい」というもの。前コーチとのトラブルがどういったものであったのか、それは当事者しか分からない。しかし、松坂ほどの高い素質を持った選手を、道に迷わせてしまったのも事実である。
スタンドには元西武外野手の柴田博之氏の姿も見られた。氏もトライアウトの受験経験者である。その当時を拙著にまとめた関係で挨拶をさせてもらったが、当時、氏は古巣・西武のことをこう語ってくれた。
「たとえライバルであっても、アドバイスを送り、『結果で勝負しよう!』と言い合えるチームなんです」
松坂が西武在籍中の思い出を語るには、まだ早すぎる。彼にもいい働き場所を見つけてほしいと願わずにはいられない。(スポーツライター・美山和也)