search
とじる
トップ > トレンド > 高橋4丁目の居酒屋万歩計(1)「東京トンテキ」(豚ステーキ)

高橋4丁目の居酒屋万歩計(1)「東京トンテキ」(豚ステーキ)

 渋谷駅南口から徒歩180歩

 「厚切り国産豚肩ロースに秘伝のソースと、とれたてラードをたっぷりかけた、今までにない豚ステーキ」がうたい文句。都内に支店を出さず、全国展開も計画なし。しばらくここ1軒でいくそうだが、その立地が秀逸というしかない。歩道橋を行き交う人の目と、ビル2階の店のガラス窓が同じ高さで、ニアミスせんばかりの距離なのだ。
 中でナイフとフォーク握る客は満面の笑みだし、繁盛しているからスタッフも満面の笑みだし、外の歩道橋でお腹をすかせて右往左往している身には、たまったものではないだろう。青山通りと明治通りが交差する渋谷駅の東口に架かる陸橋から、この店の内部は丸見え。横断歩道橋から垣間見える大規模なオープンキッチン、にしてしまった。
 名がていを表し過ぎる店内を、おっかなびっくり様子を伺う女性客には、女性シェフを厨房に2人配置して、飢えた狼どもの獰猛(どうもう)な食欲を満たすためだけのお店ではありませんよ、というメッセージを懸命に発信。店の名刺にただ一行、女性も歓迎、とこれも懸命。にもかかわらず、今夜も来たぞお、と唸(うな)り声をあげて狼が2匹突入してきた。

 狼たちは、分厚い鉄板の上で湯気を渦巻き立たせているハンバーグステーキの塊に、目を細めている。目に、まず食べさせている。わっ、鉄板にかぶりついた。
 このあたり一帯のランドマークだった、屋上のプラネタリウムが目印の東急文化会館の跡地を資材置き場にして、東急東横線と東京メトロ副都心線の相互乗り入れ工事が急ピッチで進んでいる。東横線は代官山、中目黒、自由が丘、田園調布などを擁(よう)する東急グループの中枢。想像に難くない電鉄社内での微妙な力関係に、火に油を注いで妄想を炎上させた古今亭駒次の創作落語「鉄道戦国絵巻」が面白い。
 戦国時代、一武将に過ぎない東横線が主家である東急電鉄本社に反旗を翻し、相互乗り入れを画策して大国JRグループと手を結ぼうとする。東急電鉄が1強8弱の路線を持つことを知っている一部の東京人しか笑えない、当たり前だが関西では全く受けないらしいこの噺(はなし)の、東横線を迎え討たんとする主家の家老が“弱小池上線殿と弱小世田谷線殿は参戦の義に及ばず”と2人を諭す件(くだ)りで、わたしは悶死した。
 トンテキ定食(1000円)到着。角のハイボールできゅーっと喉潤しをして、がぶりと200グラムの肉を犬歯で裂く。ウルフルズの「ガッツだぜ!」をBGMに、狼たちの仲間入り。

予算1700円
東京都渋谷区渋谷2-22-10タキザワビル2F

関連記事


トレンド→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

トレンド→

もっと見る→

注目タグ