問題の映像はASKAが2016年に覚せい剤取締法で逮捕された(嫌疑不十分で不起訴)際、ASKAがタクシーに乗り、運転手と会話している様子。タクシーのドライブレコーダーを三陽自動車交通が報道機関に提供した。
この映像は「逮捕前の言動を確認する」などの名目で、『情報ライブミヤネ屋』(日本テレビ系)や『直撃LIVE!グッディ』(フジテレビ系)など民放4局で繰り返し放送され、視聴者から「流していいのか」「事件と関係ない」と猛批判が上がっていた。
放送局各社は批判に対し、「公的な存在といえるASKA氏の逮捕直前の様子や言動を伝えることは重要で、公益性・公共性が高いと判断した」などと正当性を主張。ASKAはドライブレコーダーが流出したことはプライバシーの侵害として、撮影した三陽自動車交通に対し1,100万円の損害賠償を求め提訴していた。
判決で東京地裁は「容疑事実(覚せい剤取締法違反)とタクシー映像は無関係」「映像の提供に公益性はなく、プライバシーを侵害した」とASKAの訴えを認め、三陽自動車交通に対し220万円の支払いを命じた。なお、車内を撮影すること自体は違法でないこと、ASKAのイメージ低下は映像自体よりもテレビ局の編集による影響が大きいとし、減額された。
金額は減額されたものの、裁判所はドライブレコーダーを提供した三陽自動車交通の違法性をはっきりと認めた。今後、「公益性」を盾に映像を公共の電波に乗せたテレビ局の責任が問われていくものと思われる。
この件については、2016年に国土交通省がドライブレコーダーの映像は運転者の安定運転指導や事故調査・分析に活用されるべきであり、マスコミに映像を提供することは遺憾として、適切な管理の徹底を関係団体に通知している。
また、放送を流したテレビ局についてもBPOが各局に注意喚起。芸能人とはいえ、タクシーのドライブレコーダーを無断でテレビ局に流され放送されてはたまったものではない。映像を流すことが不適切であることは、素人でもわかりそうなものだが…。
いずれにしても、裁判所が「違法」と判断したドライブレコーダー流出・放送事件。事の発端は報道機関の要請で、それに応じた三陽自動車交通が映像を提供したものと見られており、すべての元凶は「テレビ局」とも考えられる。
そのような経緯が事実とするならば、タクシー会社だけが責任を取らされるのは、おかしな話といわざるをえない。放送した民放4局は、ASKAに謝罪するとともに、番組内で経緯を説明した上で、然るべき責任を取る必要があるのでは。
「知らんふり」では、ASKAがテレビ局を相手取り、訴えを起こす可能性も否定できない。また、「テレビ局による報道の信頼性」が大きく損なわれることになるだろう。