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現代の“売血” ネットカフェ難民 恐怖の人体実験

 医薬品開発に不可欠な「治験」が危ない。ボランティア名目の手軽な高額アルバイトとしてひそかな人気だが、最近になって、大々的な募集PRが始まった。しかし、生半可なキモチで応募すると、万が一の健康被害の際などに、手痛い仕打ちに遭う恐れもある。

 「治験知ってる?」
 挑発的なコピーが躍るこんな広告が登場したのは、全国チェーン展開する都内の大手ネットカフェだ。「住居がない方は相談してください」(東京都)といった、いかにも「ネットカフェ難民」向けのチラシと並んで掲示されている。
 指定されたURLをたぐると、製薬企業から治験を委託された実施医療施設と、その支援企業に行き着く。
 治験とは、開発中の医薬品の安全性と有効性を調べるため、実際に人体に投与して行う臨床試験。医療施設で医師が「どの程度効くか分からないが使ってみますか」と患者に声を掛けるほか、広く健常者を対象に行う。
 施設内に長時間拘束されることもあり、被験者には協力費として、製薬企業から医療施設を通じて報酬が支払われる。身体を実験台にするというデリケートな募集のためか従来から公募はせず、人づてにひっそりと実施。知る人ぞ知る「裏バイト」だった。
 ところが最近、支援企業はネットなどで大々的に公募。「被験者の属性に対する製薬企業側のリクエストが厳しくなってきたため」(関係者)だ。
 そこで登場したのが、ネットカフェへの広告掲示だ。時間を持て余しながら住環境に恵まれない「ネットカフェ難民」にとっては格好のアルバイトと言える。

 厚生労働省令では治験について、「失業者または貧困者」などの「社会的に弱い立場にある者」を被験者とする場合には、「慎重な配慮を払うこと」と定めている。報酬目当てに嘘の申告をすれば、新薬開発で正しいデータが出ないだけでなく、被験者自身の健康にも予期せぬ重大な悪影響をもたらす可能性があるからだ。
 治験依頼側の製薬企業で作る業界団体、日本製薬工業協会の担当者は、依頼先による思わぬ場所での募集広告に、「え、そんな場所で?」と絶句。しかし、広告主サイドの支援企業は取材に、「ネットカフェ難民を集めようというのではなく、あくまでも不特定多数向けの広告」と説明する。厚労省は、「この広告自体が違法とは言えません」(医薬食品局審査管理課の担当者)と静観している。
 しかし、コトは深刻だ。健康被害が発生した被験者に対し、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の基準に従い製薬企業から支払われることになっている補償金は、ルール違反の治験には支払われない可能性がある。
 国内で承認される新薬は年間30程度。医薬品開発には10年かかるとされ、常時400件前後の治験が並行して進められている。同機構には最近1年間で356件(07年度)の治験薬に伴う副作用報告があった。
 治験の現場で実施医療施設は、被験者から同意書の提出とあわせ身分証明書の提示を求め、身元を厳しくチェックしているという。
 ところが、今年になってある新薬の治験に参加した被験者は、「治験が終わると、『休薬期間』と言って身体を元に戻すため別の治験には4カ月間参加できないと業界で定められているんだけど、それをごまかすため他人になりすます人も少なくない。身分証明書のチェックなんていいかげんだし」と驚くべき実態を明らかにした。
 「仮に被験者に健康被害が発生したとして、製薬企業側は、『申告に虚偽があったから補償できません』とは言えないだろうけど、相手が住所不定だったりすると、本人確認など照合に手間がかかるかも」とは、医療ジャーナリストの弁。
 広告を掲示したネットカフェ業者は取材に応じていない。一方、別の大手ネットカフェ・チェーン担当者は、「広告掲示の話はウチにも来たけど断った。ネットカフェ利用客が治験って、違和感があるよね」と、自らの客層と、社会貢献の皮をかぶった「裏バイト」のミスマッチぶりを説いてみせた。

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