11月15日に都内ホテルで選考委員会(王貞治委員長=ソフトバンク球団会長)が開かれる『正力松太郎賞』が、その栄冠だ。日本のプロ野球の発展に大きな功績を残した故正力松太郎氏を記念して、1977年に制定されている。毎年のプロ野球界で最も貢献のあった競技者(監督、コーチ、選手、審判)に対して授与されることになっており、副賞500万円は球界の表彰の中では最高の賞金だ。
77年に世界の王こと巨人・王貞治が大リーグ記録を超えた通算756本塁打を記録して受賞者第1号になっている。その王氏が昨年から川上哲治氏(元巨人監督)に代わり、選考委員会の選考委員長を務めている。中日・落合監督対ロッテ・西村監督の勝者が今年の正力賞の最有力候補になる。
落合監督が勝てば、4年ぶり3度目のリーグ優勝、3年ぶり2度目の日本一を達成する。「前回はリーグ2位からの日本一だったので、リーグ優勝しての日本一は56年ぶりになる。リーグ優勝、クライマックスシリーズ制覇、日本シリーズ勝利、完全優勝してこそ意味がある」。こう落合監督が強調する通り、完全優勝にはそれだけの価値がある。前回はリーグ2位からの奇跡的な53年ぶりの日本一が評価されての正力賞初受賞だったが、今回も当然、2度目の正力賞受賞当確になる。
対するロッテ・西村監督が日本シリーズを制覇すれば、落合超えの快挙が評価されて初の正力賞という栄冠が手に入る。パ・リーグだけが実施していたプレーオフの時代からポストシーズンゲームでリーグ3位のチームが勝ち抜き、日本シリーズに出場したのは初めての快挙だ。日本シリーズも制すれば、リーグ2位から日本一という落合監督を超える史上初の快挙になる。しかも、就任1年目の監督の偉業だ。選考委員会の全会一致で正力賞に選出されるだろう。
落合監督対西村監督のロッテの先輩、後輩対決には、そんな球界最高の栄誉のかかった一戦になる。西村監督は無欲だろうが、プライドの高い落合監督には絶対に負けられない戦いになる。正力賞に対する落合監督の思いは特別なものがあるからだ。
リーグ2位から日本一になり、正力賞を受賞した時に、あのポーカーフェースで憎まれ口しかたたかない落合監督が喜色満面、饒舌になり、報道陣を驚かせている。「現役時代に3度も三冠王を取ったのに、1度も正力賞に選ばれなかったから、もうオレには縁のない賞だと思っていたから、本当にうれしい」と素直に喜びを表したのだ。
日本一になれば、3年ぶりの正力賞選出は間違いないだけに、落合監督とすれば、後輩の西村監督に負けるわけにはいかないだろう。史上初のリーグ2位からの日本一という偉業も消えてしまうのだから。
さて、無欲の強さで西村監督が勝つのか。意欲満々の落合監督が制するのか。不人気日本シリーズにもそれなりの見所はある。