2番センターでスタメン出場した丸は、1回表に早速登場。移籍の経緯から激しいブーイングが飛ぶことが予想され、本人も試合前「覚悟している」と話したが、ほとんどブーイングはなし。それどころか、一部のカープファンからパラパラと拍手が巻き起こる。しかし万雷の拍手というわけではなく、先発の床田が三振に打ち取ると、それを上回る大きな拍手が出た。
第2打席以降、カープファンは「二番センター丸」の場内アナウンスにほとんど反応せず。その反応は、連覇の立役者とは思えぬものだった。そんなカープファンを、メディアは「温かく迎えた」など報道。確かにカープファンの一部から拍手は出たが、「万雷」というものではなく、歓迎されているとまでは言い切れなかったのだが。メディアは丸の巨人移籍を少しでも正当化したうえ美談とし、「カープファンも歓迎している」ということにしたかったようだ。
なお、試合は広島が4対1で勝利。巨人は12三振を喫しており、「格の違い」を見せつけた形となった。
それにしても、大人しかったカープファン。かつて、新井貴浩氏が阪神に移籍した際は、激しいブーイングが乱れ飛んだのだが…。野球に詳しいライターは原因をこう分析する。
「最近、ブーイングにうるさいファンが多いんですよ。プロスポーツのファンは時に熱くなり罵り合ったりするものですが、『今はお行儀よく野球を見ましょうね』という世界になっていますので。実際、ネット上では『温かく迎えよう』なんて言っている人もいましたし。
いい悪いは別にして、ファンが不満をぶつけることもプロスポーツを応援する者の1つの手段ですし、FA移籍が気に食わないという気持ちをブーイングでぶつけたいと思うことも当然だと思いますが、今は許されない行為となっているようです。ただ、1人がやれば集団心理で連鎖すると思いますがね」
「さらに、チームの強さもあるのでは」と前出のライターは語る。
「新井や金本の時代は広島が弱く、『弱いチームから取りやがって』という反感もあった。
今のカープは、丸が抜けても売出し中の坂倉や野間、下水流、そして人的補償の長野など、代わりはたくさんいる。『出ていくならどうぞ』と余裕なんでしょう。逆に言えば、丸が入っても巨人は今のカープからしたら全く怖くないということですよ。
しかし、シーズンに入って丸にいいところで打たれたら、ブーイングが飛ぶと思いますよ。それは当然のことだと思いますが。いずれにしても、大して怖くない選手という認識なのでしょう」
オープン戦初戦広島投手陣に抑えられた丸佳浩。その打棒でかつてのファンを怒らせることができるだろうか。
取材・文・櫻井哲夫