実は、この城島獲り失敗だけでなく、王球団会長を落胆させているソフトバンクの資金不足が起こした別件事件がある。自らが後継監督に指名した秋山幸二監督のために、就任早々の王球団会長は、「お金がかかってもいいから良い新外国人選手を取らないといけないな」と高らかに宣言して、陣頭指揮で大物メジャーリーガー獲得も辞さずの強気の姿勢だった。が、いつの間にかいつも通りのマイナーリーグ級の新外国人選手獲りになってしまったのだ。「お金がないのがわかって王さんはガックリしていたよ」。現役時代から親交のある球界関係者はこう証言している。
楽天の方は来季の監督人事でも球団経営への情熱のなさと金欠を露呈している。球団創設5年目で初めてクライマックスシリーズ出場を果たし、続投に執着していた野村監督を、契約期間満了を理由に解任している。「CS出場をさせた野村監督を辞めさせるのはおかしい」と、野村解任反対を叫ぶ世間を敵に回してまでなぜ強行したのか。1億5000万円といわれる高い年俸がネックになったのだ。後任が広島監督だったブラウンということでもわかるだろう。4000万円と今季12球団一年俸の安い監督だ。野村監督の4分の1弱に過ぎない。
笑ってしまうのは、お金をけちって、結果的に野村監督の口封じのために慰謝料を払わせられる羽目に陥ったことだ。「楽天の暴露本を上中下の三巻で出す」という野村監督の脅迫まがいの予告に負け、三木谷球団会長が「名誉監督」のポストを提示、事実上の慰謝料を支払うことになったからだ。「名誉監督に3年間という期限が付くこと自体おかしいよ。1年5000万円として3年間でこれまでの1年分の年俸を支払うのかな」と球界関係者、OBから冷笑されている。
が、楽天本社からの株買い占め、乗っ取りを阻止したTBSも「いい気味だ」と笑っていられない。横浜球団をもてあましており、身売りしたくてもできない現実に頭を抱えているからだ。「球団経営に情熱がないなら、身売りしろと言われても、今の体たらくの横浜を買ってくれるところなどありませんよ。あったら教えて欲しい」と、TBS関係者が言うのだから、笑い話にもならないだろう。語るに落ちたというしかない。
毎年、監督を取っ替え引っ替え、ついに来季は前阪神監督の岡田彰布新監督を誕生させたオリックスも、最後の勝負といえる。関西での野球人気を独占する阪神タイガースにジュエラシーを隠せなかった宮内義彦オーナーにしたら、現役時代は猛虎の主砲、阪神監督としても優勝している岡田監督は切り札と考えている。
「ウチは宮内オーナーに何かがあれば、すぐに球団は身売りでしょう」とオリックス関係者が断言している。阪神時代の人気を当て込んで勝負手とした岡田監督が失敗すれば、宮内オーナーの球団に対する熱意は完全に消滅するだろう。そもそも、球界参入に預かり保証金なる制度ができたのは、オリックスが阪急ブレーブスを球団買収したのが、引き金だった。「オリエントリースからオリックスの社名変更するために球団を買ったのが目的だ。新企業名が広まったら、いつ球団を手放すかわかったものではない。そうさせないためには、簡単に球団身売りができないようにする必要がある」という、他球団の懸念から出来た制度なのだ。当時の新機軸のレンタル会社、巨人・渡辺球団会長言うところの『金貸し』のオリックスの立場と、一時期、現在の時代の寵児ともてはやされたID企業のソフトバンク、楽天がオーバーラップしてくるだろう。
オリックスの場合は故・仰木彬監督という個性派監督の元でスーパースター・イチロー(現マリナーズ)が誕生したおかげでどうにかこうにか、ここまで生き延びてきたが、とうとう正念場を迎えている。04年の球界再編成、1リーグ制度への移行が決まりかけた時の主役が近鉄を吸収合併したオリックス・宮内オーナーだったことを忘れてはいけない。当時の西武・堤義明オーナーと2人で巨人・渡辺オーナー(現巨人球団会長)に対し、「今のままではパ・リーグ球団はやっていけない」1リーグ制度実現を懇願、実現一歩手前までいっている。
あれから5年。「あの時に思い切って1リーグ制度にしておけばよかったんだ」と悔やむ球界、球団首脳は少数派ではない。それはそうだろう。球団身売り競争のトップを切るのは、ソフトバンクや楽天か。それとも横浜、オリックスになるのか。一番手がどこになるのかが焦点になっているのだから。
(了)