舞台中央の3段ぜりが、独楽(こま)のようにくるくる回るからコマ劇場。2008年12月22日、冷たい雨が濡れそぼつ夜、52年間の歴史に幕を下ろした。ファイナル公演を何にするかで揉めた。結局、東宝の創始者小林一三が、生前最後に手がけた小屋であることから、39年に及ぶ貢献度を誇る北島三郎氏(歌手)を退けて、筋目からいって由緒正しい、宝塚OGによる「愛と青春の宝塚〜恋よりも生命よりも〜」が選ばれた。
確かにそれは、戦争のために閉鎖に追いやられる宝塚大劇場と、閉館へ向けて砂時計の砂が刻々と失われて行くコマ劇場とをダブらせる構成で、劇的なさよなら公演となった。大石静氏(脚本家)の最後の一行は、<焼け野原で復活する宝塚劇場>。宝塚歌劇を、終戦の暗雲を割って射す一条の光とした。
光が射せば影も生じる。閉館で飲食テナントが立ち退きを余儀なくされた。「フライキッチン峰」もそのひとつ。からりと揚げられたフライと白いご飯で、傾(かぶき)者の吊り上った目の玉をいくつ穏やかにしたことだろう。書を捨てて街に出てきてしまった、おっちょこちょいたちも、随分とお世話になっているはずだ。ファイナル公演のファイナルナイト、雨の上がるのを待って牡蠣(かき)フライでビールを飲んでいると、楽屋から手締めの音が漏れ聞こえてきた。
店を再開するなら名を変えないでほしい。この街は捜索には向かない街だから。
予算1500円
移転中(旧住所・東京都新宿区歌舞伎町1-19-1)