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連載ラノベ 夢ごこち(32)

 生理に悩まされる三日間は、明かりを消して布団に入ると、天井の木目の芯が、黒く浮き上がってくる。目を閉じると、木目から出てきた闇が、私の方へ落ちてくる。まぶたの裏側で、広がっていく。

 そうなると、お腹がへんになる。何かが私の中へ入ってきた感じになって、がまんはするけど、それでも、何かがお腹の中で動き回ることを止めることはできない。じっとしているしかない。

 もしかしたら、その三日間は、私の体の中で、怪鳥が巣を作っているのかも。

 雲がかすれている。月明かりが浮かんできた。暗雲が、次から次へと横切っていく。暗闇がどこかへ移動しているんだ。

 雲に交じって、くちばしが見えた。怪鳥が飛んでいる。

 健太君を布団に入れてから、火もとを確認するため土間に下りた。おばあちゃんの家の土間は広い。元栓を見てから居間に上がった。電気を消した。振り向くと、土間の自転車や漬け物の瓶が、みんな暗闇の中に消えていた。天井を横に通してある柱だけ、しなっている所が、白く浮き上がって見えた。

 戸締まりも、大丈夫。家じゅうで窓カラスが震えているけど、台風は、まだ来ない。

 窓の外は真っ暗だ。けど、あやしいものたちは、この家の中へは入ってこない。玄関にはちゃんとお札がはってあるし、屋根の鬼瓦が空を見張っている。それに、縁の下の柱にも、魔除けの猿が掘られている。

 離れに戻ると、蚊帳の編み目の向こうに、掛け軸が見えた。

 掛け軸には山渓が描かれている。竜もいる。指で玉をつかみ、とんがった角を生やしている。昔の人は、竜の姿を見たことがあるのだろうか。それとも、暗雲が、竜に見えたのだろうか。竜の首のつけ根には観音様が立っている。けど、蚊帳が邪魔して、薄目を開けた観音様の顔が見えない。

 常夜灯だけ残して電気を消した。雨戸は、健太君に何かあるといけないので、閉めていない。

 障子が、ぼんやりと浮き上がって見える。蚊帳の中が、オレンジ色に照らされる。なんだか、お姫様の寝室みたい。

(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)

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