「ちょっとずつ良くなっていたので、投げられる、投げたいという気持ちと半々です」
田中は各メディアにそうコメントしていた。再起を掛けたトライアウトを受験するのかどうかは「未定」とのことだが、その言葉からして野球にまだ未練があるようだ。
田中がドラフト候補だった2014年当時を知る在阪球団スカウトがこう言う。
「関西学生野球リーグでは立命館や同志社などの強豪相手に好投していました。味方打線の援護に恵まれなかったので勝ち星は少なかったですが、防御率は良かった。強豪校のなかに入っても通用する好投手でした」
しかし、プロの壁にぶつかり、わずか3年で解雇となった。この京大出身投手の解雇は、今年10月26日のドラフト会議にも影響を与えたという。
今年のドラフト候補のなかに、東京大学の左腕、宮台康平投手が含まれているのだ。左投手ということで12球団全てがチェックしてきたが、某スカウトの言葉を借りれば、「プロでどれだけ成長できるか」がポイントになっている。宮台のストレートは150キロ強をカウントする。しかも、制球力が高い。どの球団も左投手が不足しているだけに“期待”を込めて見守ってきたようだ。
「過去にも東大からプロ野球に進んだ投手はいましたが、『東大出身』となれば話題性もあります。営業面から考えても欲しいと考える球団は少なくありません」(前出・在阪スカウト)
話題性といえば、斎藤佑樹(29)が9月27日のオリックス戦に先発した。6回を投げ、被安打5、失点2。数字だけなら、「好投」と言っていい。しかし、大学卒でプロ7年目の投手が「勝敗はつかなかったが、好投」というレベルでは、球団も困るだろう。
2010年ドラフト会議で斎藤が指名される直前、東京六大学リーグの舞台である神宮球場でこんなシーンも見られた。大勢のスカウトがネット裏に駆けつけたのだが、ほとんどの球団は“見ているフリ”をしていた。某在阪球団にいたっては、顔見知りの記者や学生野球の要人とお喋りをしているだけだった。翌朝のスポーツ新聞には「10球団15人以上のスカウトが…」と書かれていた。その異様な光景は各メディアも気づいていたのに、だ。
「東京大学の監督になった浜田一志氏は良い指導をされています。ここだけの話、ドラフトで指名するかどうかのボーダーライン上にいる選手に対し、『誰に野球を教わってきたか』で当落を決めるときもあります」(関係者)
誰に野球を教わってきたか――。その話が本当なら、東大投手・宮台は指名される条件を満たしていることになる。しかし、野球強豪校で徹底的に鍛えられていた他のドラフト候補生と比べれば、「体力」では叶わないだろう。今回、田中が解雇の非情通達を受けたのも、フィジカル面が影響していたそうだ。
「プロ2年目の昨季、二軍戦のベンチ入りからも外されて、ネット裏で自軍投手のスピードガン測定をやらされていました。プロ1年目で一軍デビューしたものの、釣瓶打ちに遇い、自信をなくしていました。今季途中からサイドスローに転向するなど頑張ってきましたが」(前出・同)
釣瓶打ちにされたショックでイップスになったとの情報も聞かれた。田中は自分でメンタルトレーナーを探し、心の傷も癒してきた。こういう行動にしてもそうだ。知性派は考えることが違う…。
田中は千葉ロッテの指名を受けたあと、M物産の内定を辞退した。有価証券報告書などによれば、同社社員の平均年収は1400万円強(重役含む)。田中は契約金7000万円、年俸1500万円(推定)だったので“社会人生活のスタート時点”では、他の同級生よりも年収が高かったはず。今季の推定年俸は1000万円。M物産の平均年収以下だが、同級生よりはまだ高いと思われる。しかし、これからはそうはいかない。
戦力外となった田中がトライアウトを受け、他球団で一軍戦力となれば、すごいドラマになる。話題性は十分である。
「高校生のドラフト候補のなかには筆記試験で有名大学にも受かりそうな選手も何人かいますよ。清宮(幸太郎)君も英会話の実力派なかなかですよ」(在京球団スカウト)
高学歴のドラフト候補生は、どんな心境で指名当日を迎えるのか。他選手よりも考えることが多そうだ。