阪神との争奪戦で完敗。王会長の秘蔵っ子・城島健司を復帰させることに失敗したあげく、森脇浩司ヘッドコーチの解任のダブル失政で王会長を激怒させた竹内孝規・常務取締役常務執行役員COOを1月に解任。同時に編成委員会を新設して、王会長を副委員長に。「王さんの持っている常勝のノウ・ハウのすべてをチームに伝えてもらいたい」と、委員長の笠井和彦オーナー代行が全権委任を表明。「現場しか知らないからいい肩書きをもらった。最後のご奉公をする」と、王会長をその気にさせている。
実際に王会長は新任の秋山幸二監督に気配りをして昨年一度も視察しなかった春の宮崎キャンプを訪れ、編成副委員長として、ナインに積極的に接するなど精力的な活動をしている。そんな最中、突然発表された森脇氏の「編成アドバイザー」としての復帰劇。秋季キャンプ終了後の非常識な電撃解任からわずか2か月半の前代未聞の人事だ。監督時代から森脇氏を参謀格のコーチとして高く評価していた王会長が、竹内COOの解任で一新された体制を生かし、森脇氏を今度は背広の参謀として復帰させたのだ。
しかし、「組織の活性化を」理由に解任したばかりの人物を2か月半で復帰させるのは、朝令暮改が珍しくない球界でも異例中の異例だ。「恥ずかしながら森脇さんのお知恵を借りたいということです」と、フロントの幹部の1人が肩身を狭くするのは当然で、世間的には球団は物笑いの種だろう。
ソフトバンクが世間体など構っていられないのは、王会長の流出阻止という最大の緊急テーマがあるからだ。王降ろしも目論んでいたといわれる竹内COOの解任だけでは、王会長が納得しないだろうと、フロントを王体制に一本化する。そのための森脇氏の前代未聞のスピード復帰劇となったのだ。
ワンマンオーナーの孫正義オーナーがあわてふためいて王会長の慰留工作に走ったのも当然だろう。昨年、連覇を果たしたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でコミッショナー特別顧問、日本代表監督相談役を務めた王氏の存在感は圧倒的だった。古くから親交のある加藤コミッショナーとのパイプが改めてクローズアップされている。さらに、巨人OB会会長、昨年11月、元V9巨人監督の川上哲治氏からバトンタッチされた、読売新聞が主催する「正力松太郎賞」選考委員会の委員長のポストなど、王氏と読売グループの急接近が目立っている。名球会会長という新たな職にも就いているのだ。
「王さんはソフトバンクにもう十分に元を取らせているのだから、卒業した方がいい。球界全体のために貢献してもらいたい」「いや巨人のためにゼネラルマネージャーに就任するなど、完全復帰してもらいたい」etc王人脈と言われる球界OB、巨人OBは脱ソフトバンクを強く勧めているのが現実だ。このままの状態を放置していたら、王氏のソフトバンク退団は時間の問題とも言える緊急事態だ。
ソフトバンクにとって、唯一の頼みの綱は、福岡に王氏と同居する事実上の奥さんがいることだけだ。が、独身の王氏が東京で同居を決断すれば、引き留めの切り札にはならない。ソフトバンクが世間体に構っていられずに、竹内COO解任、森脇氏の復帰など王氏の引き留め策に大わらわなのは当然だろう。世界の王がいなくなれば、ソフトバンクは完全な九州ローカル球団に成り下がるのだから。