となると、球団首脳は頭を抱えることになる。高田前監督のシーズン途中の引責辞任は想定外だったが、今季3年契約切れでシーズン後には退団。荒木大輔投手コーチ(46)の来季監督就任は既定路線になっていたからだ。
驚異的な実績を残している小川監督代行を監督に昇格させず、監督手腕が未知数の荒木コーチを予定通りに監督に就任させるのは、リスクを伴う。荒木コーチはまだ46歳なので、常識的に考えれば、先送りするのが順当だろう。
ネームバリュー的には無名と言っていい小川監督代行だが、習志野高時代は、エースで夏の甲子園大会を制したこともある華々しい球歴がある。この大会で東海大相模高時代の巨人・原辰徳監督は準々決勝で敗れ去っているという因縁もある。
大学は中大、社会人の河合楽器を経て、ヤクルト入りしたが、選手としては控えでレギュラーにはなれなかった。が、07年まで9年間にわたって二軍監督を務め、高田政権下でヘッドコーチ、さらに監督代行と、首脳陣としては要職を歴任している。来季の監督就任にはなんの問題はない。
が、監督代行として手腕を発揮した小川氏が監督になって、そのまま好成績を維持できるかどうかとなると、話は全く別問題になってくる。最近ではオリックス・大石大二郎前監督(現ソフトバンク)の例がある。
08年、オリックス・コリンズ監督が21勝28敗、5位の成績で5月下旬に突然退団。その後を受けて5月23日に大石ヘッドコーチが監督代行に就任。54勝40敗1分の好成績をあげ、チームを2位に引き上げ、クライマックスシリーズに出場させる手腕を発揮した。「大石は本当にたいしたもんだよ。あの泥沼状態から、チームを2位に引き上げたんだからね」と、当時ソフトバンク監督だった王貞治球団会長が絶賛している。
しかし、昨シーズンの大石監督は56勝86敗2分の勝率3割9分4厘で最下位に沈み、解任されている。自分勝手で、元メジャーリーグ監督のプライドばかり鼻につくコリンズ前監督にウンザリしていたオリックスナインは、オーソドックススタイルの大石監督代行を大歓迎。5位から2位まで駆け上がったが、大石監督となると、話は全く別で天国から地獄へ真っ逆さまだった。コリンズ前監督への反発が大石監督代行へプラスに作用した面が消えたからだろう。
今のヤクルトも酷似している。64歳の高田前監督とヤクルトナインにはゼネレーションギャップがあったし、さらにV9巨人ナインとして厳しい野球を経験してきた高田前監督と、放任主義で育ったヤクルトナインの壁も厚かった。が、ヤクルト育ちで二軍監督を長く務めた小川監督代行とナインの間にはコミュニケーションがある。高田前監督への反発もプラスに作用した。が、オリックス・大石前監督の例でわかるように、監督代行対選手と、監督対選手では関係が違ってくる。
当初の予定取り、荒木投手コーチを昇格させるべきか、実績を評価して小川監督代行を監督に就任させるのか。ヤクルト球団首脳の二者択一は簡単ではない。