湯加減を整え、サンダルを履いたまま土間から健太君を呼んだ。
「健ちゃん、お風呂できたよ。いらっしゃい」
呼んでみたけど、健太君は来なかった。一番奥の部屋にいるのかな。もう一度、叫んだ。
「健ちゃん、どこー」
居間のふすまが開いているので、声は廊下まで届いているはずだ。でも、健太君が来る気配がない。けど、サンダルを脱いで土間に上がったとき、健太君がやってきた。
「健ちゃん、お風呂よ」
告げると、健太君が土間へ顔を向け、それから私を見た。健太君、目がくりっとして、ウサギみたい。
「健ちゃん、お風呂よ。お姉ちゃんが体を洗ってあげる」
健太君をお風呂に入れてあげたのは、もう何年前だろう。あのときの健太君はまだお腹がぷっくりしていた。洗い場で立ったままはしゃいで、私の肩に両手を乗せていた。手ぬぐいを三、四回、まわすだけで、体じゅうが洗えてしまう背丈だった。そのときから考えると、今の健太君は、だいぶ大きくなって、体つきもやせている。
健太君が、また土間を見渡した。首をすくめて、ほんとに小動物みたい。
腕まくりをして、土間に降りた。
「さっ、健ちゃん、服を脱いで」
けど、健太君は居間に立ったまま動こうとしない。この家は土間と居間の段差が大きいので、私が土間に立つと、居間にいる健太君と同じくらいの背丈になる。
でも、健太君、どうしたのだろう。お風呂に入りたくないのかな。不安そうな顔をしている。
健太君が、いきなり言ってきた。
「ねえ、ひとりで入る」
健太君、恥ずかしがっているんだ。カレーを食べていた時も、なんだか、もじもじしていた。けど、なんでだろう。私と二人だけでいることが気になるのかな。
でも、うつむきながら照れている健太君、かわいい。
(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)