戦国時代の姫君である江と、「好きでもない人に嫁ぐのですか」発言など現代人感覚の言動にはしっくりこない面がある。上野のヒット作『のだめカンタービレ』の印象から、着物を着た「のだめ」にしか見えないとまで評されている。
仮に江と「のだめ」のキャラクターに重なるところがあるならば江が「のだめ」姫に見ることは、それほど悪いことではない。それでも「のだめ」姫には違和感がある。風呂に入らず寝ぐせが酷いなど身だしなみに無頓着な「のだめ」と、鮮やかな着物を着飾った姫君にはギャップがあるためである。この点で今回は江が普段とは異なる姿になることで、江が「のだめ」に見える視聴者の違和感を抑制できた。
江は千利休(石坂浩二)の切腹を回避するために奔走する。豊臣秀次(北村有起哉)から「利休が詫びを入れれば切腹は免れる」との助言を受け、利休に会うことを決意する。警戒厳重な利休邸に潜入するために、江は豊臣秀勝(AKIRA)と共に炭売りに変装する。この利休邸の警備担当は史実と同じく上杉家で、2009年の大河ドラマ『天地人』の主人公・直江兼続と思しき「愛」の前立ての武将も瞬間的に登場した。
炭売りに変装して潜入というシナリオはリアリティに欠けるが、無謀とも思える行動力は江のキャラクターとして定着している。史実でも江は妊娠中の体で千姫の輿入れの旅に付き添った。出産も旅行も大事業であった当時は容易ではないことであった。また、江(小督)を主人公とした諸田玲子の歴史小説『美女いくさ』では小督が船の積み荷の中に隠れて敵の包囲を突破し、援軍を求めるエピソードを挿入している。
炭売りに変装した江は顔も手も煤で汚れ、庶民になりきっている。お姫様姿で天下人に物申しても、身の程知らずの傲慢な姫君に過ぎないが、炭売りの姿で「切腹など、この私がさせませぬ」と言う江には迫力がある。「のだめ」のようなストレートさは着飾った姫君よりも、炭売り姿がマッチする。
利休を説得しようとした江であったが、利休の覚悟に何も言えなくなった。利休の最後に点てた茶を飲み、「おいしゅうございます」と満面の笑顔を浮かべる。利休が「そのお顔こそ何よりにございます」と言うほどの笑顔であった。ボロをまとい、煤で汚れている江であったが、この時の笑顔は美しく、上野の女優としての真価を示していた。
(林田力)