盗塁王3回、ゴールデングラブ賞5回と輝かしい実績を誇る屋鋪氏は、引退後24年経っても変わらないスマートな佇まいで登場。数々の現役時代の秘話を語った。
高卒で入団してきた屋鋪氏は「野球の醍醐味はホームラン」との思いで野球に取り組み、飛ばすことなら「田代(富雄)さんにも負けてる感じはない」ほどの自信を持っていた。しかし、左手首を痛めたことで、当時の監督・別当薫氏からアドバイスを受け、スイッチヒッターに転向したという。「別当さんの左で打ってみろの一言がなければ、選手寿命は短かったかな」と、野球人生のターニングポイントであろう出来事を振り返った。
抜群の俊足を誇る屋鋪氏だけに、“インコースのボールも三遊間に転がせ”との指示を出すコーチも多々いたという。「インコースのボールに上からバット出して、スイング遅らせてなんて理にかなっていない」と、聞く耳を持たなかったとのことで、「プロではコーチの指導の取捨選択」が必要と説き、ファンも大きく頷いていた。
盗塁についても、「興味はないし、上手くもない」と言い切るが、「アウトになることを考えていたら、スタートは切れない」とし、思い切りの良さと身体能力で盗塁を重ねた。「スーパーカートリオ」の生みの親・近藤貞夫元監督には「走らないと怒られた。塁上でチョロチョロするから、4番のレオンが監督にクレーム入れた時も“あいつらは走るしか能がないんだ”と一喝されていた」とのエピソードを披露し、会場の笑いを誘った。
93年オフ、ニュース速報にもなった「主力選手集団戦力外通告事件」は、「必要とされていない自分が悪い。恨みはない」と、意外にもサバサバした語り口だったが、「FA権を行使するか?」と先に聞かれたとのことで、補償金などとの絡みもあることから、納得いかない面もあるようだ。
そのほか、幻に終わった「ジャイアンツ槇原とのトレード話」や、「何を仕出かすかわからないとの理由で寮から7年出してもらえなかった」、「麻雀でわかる98年優勝メンバーの性格」、「金満球団ジャイアンツとホエールズの違い」、「尊敬する人物は王さん」、「野球指導者へのダメ出し」などのほかに、現在の活動の一つ「蒸気機関車の写真」の説明も丁寧に行い、ファンも食い入るように聞き入っていた。
最後に、「ベイスターズを応援して」と古巣への思いを口にし、会場を後にした屋鋪氏。豪快な時代を駆け抜けたスピードスターならではの秘話は非常に興味深く、参加したファンからは「もっと聞きたかった」との声が多く上がっていた。
主催したイベンターの長嶋伸幸さんは「参加者の皆さんが、子どもに戻ったような笑顔をされていたことが何より。大の大人が子どもに戻れるようなイベントをまた手掛けたい」と、本人も童心に帰ったような表情で振り返った。
オールドファンには懐かしく、新規ファンには新鮮なトークショーは、参加者全員に笑顔の花を咲かせて幕を閉じた。
写真・取材・文 / 萩原孝弘