しかし、分からないことがある。オープン戦とはあまりにも違いすぎるのだ。投手の成績は2試合(2回2/3)を投げて、自責点8、防御率27・00。バッターとしても32打数4安打(打率1割2分5厘)。米メディアの「高校生レベル」なるバッシングにも何も反論できないほどだった。オープン戦終了から開幕までの短期間で、なぜ、“別人”になれたのだろうか。
「2月19日、同僚たちとバット談義をしていました」(米国人ライター)
同日は野手組がキャンプに合流している。その様子は日本でも報じられたが、ここに衝撃的なデビューを飾れた理由が隠されていた。まず、大谷は日本ハム時代とは異なるバットを持ち込んでいた。材質は同じだが、長さが異なる。大谷は34インチのバットを愛用していたが、33インチと33・5インチに変えていた。
「リーグを代表するスラッガーの大半は34インチを愛用しています。でも、33・5インチを使っているバッターは愛着が強いというか、バットが若干短くなったことによる利便性を力説してきます」(前出・同)
大谷にそこまでのこだわりにないと思うが、バットを約1・3センチ短くしたのは、剛球や手元で揺れるメジャー独特のムービングボールに対応するためだろう。そう考えると、オープン戦終盤から着手した打撃フォームの改造にも合点が付く。右足を挙げていた従来のフォームから摺り足に変えた。大谷いわく、「無駄を省く」とのことだったが、要はメジャーリーグ投手のスピードに対応するためで、それがキャンプ、オープン戦を経て、開幕戦にようやく間に合ったということだろう。
「投手・大谷」のターニングポイントは3月24日のようだ。同日、マイナーの紅白戦が行われ(特別ルール)、大谷は計4回2/3を投げている。被安打2、失点2。格下のマイナー相手に失点した時点で、「降格」を覚悟した日本人メディアもいたが、エンゼルス首脳陣は“大胆な実験”を内々に行わせていたようだ。同日、大谷がマウンドで放った球数は、計85球。うち21球がスプリット系の変化球だった。
平たく言うと、スプリットとは球速の速いフォークボールのこと。また、大谷はフォークボールも投げる。投手出身のプロ野球解説者にこの大谷の変化球について聞いてみた。
「大谷のスプリットは140キロ台で、フォークは120キロ台。前者を放られると、対戦バッターは『真っ直ぐがきた』と錯覚し、空振りしてしまうんです。大谷は160キロを越すストレートを投げますから、120キロ台のフォークボールが来ると、『緩急』がつけられてタイミングがあわないんです」
前出の米国人ライターによれば、紅白戦時の大谷は制球に苦しんでいるようにも見えたという。それは2ボールカウント、3ボールカウントでスプリット系の変化球を投げていたからで、エンゼルス首脳陣は「どんなボールカウントでも、スプリットを投げられるように練習しておけ」と指示していたわけだ。
「この紅白戦と前後して、エンゼルスのソーシア監督は先発枠を争っていた4人の投手にマイナー行きを宣告しています。彼らのオープン戦の成績は大谷よりもひどかったり、故障してしまったりと理由はさまざまですが、投手・大谷を使わざるを得ない状況にあったんでしょう」(特派記者の一人)
そういうチーム状況を聞かされると、大谷は「持っているオトコ」とも言える。
現在の神掛かった活躍が続くとは思えないが、エンゼルス首脳陣は開幕に合わせて計画的に調整させてきたということか…。オープン戦の成績はアテにならないようだ。