1979年3月1日、警視庁練馬署は覚せい剤取締法違反の容疑で、フリー俳優の潮建志(当時の芸名、本名:益戸正雄)、同俳優の日尾孝司、無職・Mの3氏を逮捕した。潮氏と日尾氏は常習者だったM氏から覚せい剤を購入。2月20日まで4回〜5回に渡り覚せい剤0.5gを2万円で買い、注射していたという。
潮氏は主に悪役として『網走番外地』などに出演していた俳優であるが、彼の代表作は『仮面ライダー』の悪の大幹部・地獄大使や『悪魔くん』のメフィスト(弟)役など特撮番組への出演が人気を博し、演じる役柄の多くは悪役ながら子供たちのヒーローとなっていた。
さて、潮氏が覚せい剤で逮捕された1979年3月だが、このとき潮氏はスーパー戦隊シリーズの『バトルフィーバーJ』という作品に、悪の幹部「ヘッダー指揮官」として出演していた。ところが撮影途中に潮氏が逮捕されたために、潮氏はヘッダー指揮官役を急遽降板し、石橋雅史が代役を演じることになった。このままスンナリと降板が進んでしまえば問題はなかったのだが、関係者の頭を悩ましたのは潮氏の降板時期であった。
『バトルフィーバーJ』は1979年2月に放送が始まっており、潮氏逮捕の時点で4話まで関東地方で放送済みだったのである。しかし、遅れネットほかこれから放送される地域には、(子供番組という事もあり)覚せい剤で逮捕された潮氏の映像は使用することができない。そのため、『バトルフィーバーJ』のスタッフは、これまでの潮氏が出演していたシーンのオール撮り直しを決断せざるを得なかったのだ。しかし、撮影上の都合もあり、第4話および6話など一部のエピソードでは、潮氏が演じたヘッダー指揮官の映像を使用せざるを得ず、その結果、ヘッダー指揮官役はエピソードによって潮氏と石橋が混在するという、かなりチグハグな状態となってしまった。
現在、DVDなどで視聴できる『バトルフィーバーJ』は潮氏の出演シーンを極力カットしたものが商品になっており、初回放送時のフィルムは経年劣化により紛失してしまい、初回放送版は観ることが叶わない状態になっているという。
いつの時代も、ドラマの撮影途中に逮捕者が出ると、思わぬ二次被害が出るものである……。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)