これでは中身がないまま会見が長引くのも当然だ。日大では、会見を止めた広報に批判が集中しているが、内田正人前監督が政治家のように「私からは以上です」と切り上げることがなければ、あの会見は朝まで続いていたかもしれない。なぜなら、あの時の内田前監督に自身の悪事を認める気はなかったからだ。日頃からマスコミと良好な関係を築いていれば、あそこまでの修羅場になることはない。
先日、総合格闘技イベントRIZINの記者会見に行ってきた。お目当てはこの日に発表されるという7.29『RIZIN.11』さいたまスーパーアリーナ大会の第1弾カードだ。ただ、個人的にはRIZINのトップである榊原信行実行委員長のコメントを得ることや、会見終了後に榊原委員長の囲み会見に参加することも楽しみだった。
榊原実行委員長は、前身のPRIDE時代から会見後の囲み取材に応えてくれ、マスコミの全ての質問に対して、ていねいかつ素直に話してくれた。マスコミにとってはありがたい存在としてファンの間でも知られていた。PRIDE時代より若干まろやかになった印象はあるが、真摯に対応する姿はRIZINになってからも変わらない。
「みなさんも疲れたでしょう。来年からは見直します」
昨年の大晦日の大会終了後のことだ。榊原実行委員長は12月29、31日に2日間開催していた大会を見直すと明言し、翌日の一夜明け会見で「決定した」と伝えた。また29日に登場する予定だったギャビ・ガルシアが計量オーバーする失態を犯しカードが消滅した際も、榊原委員長は会見でていねいに謝罪していた。
興行時間の長いと批判があった昨年4月の横浜アリーナ大会では指摘を真摯に受け止め、「判定勝ちを狙うあまり、消極的な試合があった」と指摘。「そういう選手はRIZINでやらなくてもいい」とまで断言している。
デリケートな質問にしっかり答えるだけではなく、ちょっとしたリップサービスが飛び出すこともしばしばあるので、RIZINは囲み取材だけでも記事のネタには困らないのだ。当然、RIZINにも広報はいる。笹原圭一広報はPRIDE時代から榊原実行委員長の脇を固め、絶妙なタイミングで「よろしいですか?」で囲み会見を止めてくる。笹原広報の「よろしいですか?」の後に出る質問は1つだけ、もしくはないことが多い。それだけ囲み会見の満足度が高いということだろう。
新日本プロレスを買収してからの数年間の木谷高明オーナーも良かった。木谷オーナーは朝の会議に出席する前にSNSでファンとやり取りしていた。先日、木谷オーナーは「軌道に乗った今、僕が話すことはない」と現在は積極的に発言するつもりはないとしているが、いずれにせよスポークスマンの存在は大きいものだ。「世間を相手にしている」との意識が強いRIZINや新日本は、スポークスマンが実権を握り、適切に会見をコントロールしているのだ。
私はプロ野球の球団広報とも接する機会が多いが、どの球団の広報も選手を守りながら、マスコミと友好的な関係を築くことができるよう努めている。どんなに良好な関係性を築いても、「是々非々」の「非」の声が飛んでくることはある。それでも「名広報」はしっかりと受け止めてくれるのだ。
一連の大学の会見を見て強く感じたのは「広報力」のなさだった。RIZINの会見は質疑応答がていねいな分、時間は長くなる。ただ「広報力」は高い。広報に悩む会社や団体、学校関係者にはぜひ見てもらいたい。
【どら増田のプロレス・格闘技aID vol.11】
写真 / 萩原孝之