痛すぎる一敗だった。
6・15にRISEの“荒武者”後藤洋央紀、7・6にはドヒール軍団GBHのボスである真壁刀義を破り、悲願の挑戦権をもぎとった。新日プロ内部の挑戦者レースを完全制覇し、この日まで1敗もすることなく盤石で臨んだ野人だったが、外敵王者の武藤から至宝奪還はできなかった。
戦前に「駆け引きなしや」と真っ向勝負を示唆した言葉とは裏腹に、野人は実にしたたかだった。ゴング直後から武藤のボロボロの左ヒザを集中砲火。マフラーホールドや逆エビ固めで足を絞め上げる。さらには掟破りのドラゴンスクリューも繰り出したが、なかなか王者の牙城を崩すことができなかった。
すると今度は逆にナガタロック、三角絞めで捕獲されてしまう。あわやタップ寸前のところまで追い込まれたが、野人はこのピンチを力尽くで回避。武藤の体を持ち上げてそのままマットに叩きつけるや、アルゼンチンバックブリーカーから大中西ジャーマンで一気に仕留めにかかった。だが、このチャンスを決め切れず、逆にシャイニングウィザード8連発を被弾。最後は23分50秒、ムーンサルトプレスで圧殺された。
新日内部の挑戦者決定戦の末に擁立されただけに、野人の1敗の代償は大きかった。
至宝奪還に失敗して無言のまま会場を後にした野人とは対照的に、チャンピオンからは「次は8月31日に両国あるからそこで防衛戦やりたい。他団体に来る勇気のあるやつを募集中」と爆弾要求。そればかりか「なぜ中西がいままで無冠なのかわからない。でもきょう、中西がダメだったのはセコンドにいたヤツが悪いんじゃないか」と中西と同じ第3世代の永田裕志や天山広吉まで“口撃”された。
初防衛を果たして勢いに乗るチャンピオンの一方、新日プロにとっては非常事態だ。
IWGPヘビー級タイトル戦が他団体で開催されるとなれば、Uインターで1986年3月に日本武道館(第18代王者・高田延彦VS越中詩郎)で開催されて以来、史上2度目となる歴史的屈辱。この緊急事態に菅林直樹社長は「全日本さんでのタイトル戦についてはIWGP実行委員会で承認するか決めますが、認めざるを得ない部分もある。弱っちゃいましたね」と危機感も露わ。
G1を制した1999年の決勝の再現とはならなかった野人。この痛すぎる黒星でセルリアンブルーのマットに暗雲が垂れ込めてしまった。