北京五輪日本選手団の中で、最も金メダルに近い選手といえば北島だ。
北京が3度目の五輪になるが、過去最高の状態で大舞台に臨む。6月上旬に行われたジャパン・オープンでは、英スピード社の高速水着「スピード・レーサー(LR)」を着用。社会的な関心を集めるプレッシャーの中、200mではブレンダン・ハンセン(米国)の持つ世界記録を0.99秒も更新する世界新記録をマークした。
2冠に輝いた前回アテネ五輪と比べると、状態は格段にいい。2004年には、6月に欧州の大会に出場して無名の選手に敗北。同7月の米国代表選考会ではハンセンに、当時保持していた世界記録を100m、200mとも塗り替えられるなど、本番を前に状況は最悪だった。
それが今回は、直前のレースで世界記録更新という最高の結果を残して五輪を迎える。日本水泳連盟が「水着の自由化」を正式に決め、契約するミズノから許可が出たことで、北島自身も北京でのLR着用を決定。いまや“世界基準”となったアイテムも本番で使用可能になったこともあって「この記録は僕にとって大きな弾みになる」と自然と笑顔がこぼれる。「これで限界とは思いたくない。もっと上を目指したい」とさらなる記録更新の手応えまで口にしている。
15日には約1カ月の米アリゾナ州フラッグスタッフでの高地合宿から帰国。LRを着用した練習もこなした。合宿終盤には風邪をひいてしまい、休養を余儀なくされたが、「きちんと1カ月やってきたんで疲れが出て当たり前。2週間は集中できた」と余裕の表情。左ヒザの結節腫に苦しんだ4年前に比べれば、体調は断然いい。「まだ時期が時期なので仕上げるのはこれから。気持ちに余裕を持ってやりたい」と全く意に介していない。
直前のレースで好記録を樹立し、さらには調整に若干の狂いが生じながらも「必ず目標を達成する」と力強く宣言している。その陰には「勝負脳」がある。
5月下旬の北京五輪競泳日本代表の第2次合宿で、脳科学が専門の日大大学院の林成之教授から脳の働きを基にした「必勝理論」を伝授された。
林教授は「他人のためにではなく、自分のために頑張ると考えないと全力を発揮できない」と持論を展開。「こうしたらいけない、と否定語を含む考え方だと力が落ちる」など競泳日本代表選手らに心構えを力説した。その上で「人間の脳は130%まで頑張れる」という考えを選手たちに植え付けた。関係者によれば、中でも北島は熱心に耳を傾けたという。
五輪選手選考レースで世界記録を樹立し、調整の多少の狂いにも「勝負脳」によって超ポジティブな北島。五輪2大会連続の2冠達成に“当確”ランプが灯った。