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『特殊詐欺』に追い付けない「金融界」「警察」「司法」の現状

 一般市民が自分や家族が預金したお金を引き出そうとしても、銀行が過度な情報を顧客に求めたり、機械的なマニュアル対応で顧客が窮地に陥ったり、感情を傷つけられたという事例が発生しており、これは「銀行ハラスメント」ではないかいう指摘が、昨年12月7日の衆議院金融財務委員会であった。

 質問に立った末松義規議員(立憲民主党)は、以下のハラスメントの事例を挙げている。
①、母親が急病になり、入院費を工面するために母親の定期預金を息子が解約しようとして拒否された。
②、自分の高額預金を引き出そうとしたら、振り込め詐欺被害を疑われ警察を呼ばれた。
③、海外送金を拒否された。

 振り込め詐欺やそれ以外の特殊詐欺(オレオレ詐欺など)を含めた被害総額は、565億5000万円をピークに17年には394億7000万円と漸減傾向にある。だが、警察側が確認できている認知件数は、逆に増加傾向にあるのだ。「出し子」や「受け子」を警察が挙げても無罪になるケースまである。事例を挙げよう。

(1)鹿児島地裁のケース:被告男性は「荷物が送られた経緯や中身は知らない。詐欺の認識はない」と無罪を主張したが、一審の同地裁は、男性が月に20回ほど複数のマンションの空き部屋で、住人に成り済まして荷物を受け取って高額の報酬を得ていることや「何らかの犯罪行為に加わっている認識はあった」と供述している点を重視して、詐欺罪の成立を認めた。
 これに対し、二審・福岡高裁宮崎支部は、空き部屋を現金の受け渡し場所として悪用する手口が広く認知されておらず、「誰もが特殊詐欺と関連付けて考えられるとはいえない」と判断。箱の中身が詐取金と知らなかった可能性を認めて、詐欺罪は無罪とした。

(2)千葉地裁のケース:被告女性もやはり一審・千葉地裁で詐欺罪が認定されたが、二審・東京高裁は「宅配便を受け取った行為が、何らかの犯罪に関係する可能性が高いと認識していた程度にとどまる」とひっくり返した。
「受け子」レベルを有罪にできない。加えて被害者に電話をかけて騙す「かけ子」やその上の「指示役」は特定できない。しょせん受け子は、高額報酬を持ち掛けられた若者が「アルバイト感覚」で引き受けるケースが多く、組織の上層部が最低限の情報しか与えていないので、捕まえても特殊詐欺の撲滅には至らないが、それにしても酷い。
「指示役の情報統制が『箱の中身は知らない』という受け子の弁解にもつながっている。今回の2人の被告は、箱の中身について『覚醒剤か、拳銃だと思った』と説明しています。そのような認識にとどまると、金銭を騙し取る詐欺罪は成立しません」(法曹関係者)

 一方、ようやく「受け子」の刑事責任に踏み込む司法判断も出てきた。警察が「受け子」をおびき出す「騙されたふり作戦」についても無罪判決が散見されたが、最高裁は昨年、「騙された作戦の開始を認識せずに現金を受け取っている」と判断し、詐欺未遂罪の成立を認めた。

 上記の事件でも「受け子」の責任を認めれば、「中身は知らなかった」という弁解は難しくなる。
 いずれにしても、これだけオレオレ詐欺など特殊詐欺が蔓延に警鐘を鳴らしても騙される人が後を絶たない。まさに「浜の真砂は尽きるとも、世に盗人の種は尽きまじ」(石川五右衛門の辞世の句)だ。

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