「残念な結果になった。これは縁なので仕方ない」
だが、トラ番記者団が投手陣の再整備について質問したときだった。中村GMの表情がさらに厳しくなった。
「これからの問題。(中田投手から)返事があったばかりなので…」
中田の獲得失敗で、阪神の補強は『天国』から『地獄』に一気に転落したと言っても過言ではないだろう。
「呉昇恒(オ・スンファン=31/前韓国サムスン)の阪神入りが決まりました。韓国通算277セーブの実績もそうですが、過去、日本のプロ野球に挑戦した韓国人投手を比べても、彼が一番です。中日で活躍した宣銅烈(ソン・ドンヨル)よりも結果を残すと思う」(WBCに関わったスポーツ企業員)
今オフのトラの補強ポイントは、主に3つ。クローザー、4番バッターの獲得。そして、4人目の先発投手を獲ることだった。
新4番候補として、米ナショナルズのカウス・ゴメス内野手(29)も獲得。呉昇恒もそうだが、クローザーと4番は予定通り、外国人選手で埋めることができた。
今季の先発投手の成績は、以下の通り。
能見篤史 11勝7敗
メッセンジャー 12勝8敗
藤浪晋太郎 10勝6敗
スタンリッジ 8勝12敗
リーグ防御率3位のスタンリッジとの契約を見送ったのは、呉昇恒を獲るためだった。外国人選手の出場枠もある。現行ルールでは、外国人選手の出場登録(一軍)は「4人まで」。クローザー候補の呉昇恒は基本的に全試合、出場登録しなければならず、4番も務めたマートン、新加入のゴメスの野手2人との兼ね合いを考え、スタンリッジを見送った。そのスタンリッジの抜けた穴を国内FA市場で補充する計画だったが、中田の獲得失敗で『4人目の先発投手』が喪失してしまったのだ。
「スタンリッジを呼び戻す? 先発のメッセンジャーとスタンリッジを交互に登録抹消してやり繰りする方法もあるんですが、その考えは首脳陣にはないようです」(関西系プロ野球解説者)
FA交渉という不確定要素を抱え、優良外国人投手を捨てた阪神…。今後は国内トレードを模索するようだが、
「交換要員で相手球団と折り合いが付かないのではないか?」(前出・同)
との見方が支配的だ。
新人の岩貞祐太(22=横浜商大/ドラフト1位)への期待も大きいが、スタンリッジの8勝に次ぐ先発投手は、榎田大樹、筒井和也の4勝。秋季キャンプでは、二神一人の先発転向も伝えられたが…。
常に冷静な中村GMのことだ。水面下で『次の一手』は打ってあると思われるが、たった1人のFA投手の交渉に失敗し、投手スタッフの編成案全てが瓦解するとは、ちょっと考えられないケースである。