チーム関係者が9回裏の阪神の攻撃を指して、「鳥谷を出場させる場面は3度あった」という。
「代打で登場するとしたら、その場面は3度ありました。9回裏、先頭バッターの植田の代打として登場するか、次打者の糸原のとき。植田が出塁して糸原に送りバントのサインが出たとき、ベンチにキンと張りつめた緊張感が漂い出し…」
阪神ベンチ全体が連続試合出場の終焉を直感したというわけだ。
1番バッターの植田は、この9回裏の攻撃まで4打席回ってきて、2打数1安打。2つの四球も選んでいた。また、2番糸原は3打数1安打、1つの四球を選んでいる。1、2番が高い出塁率を見せていたが、この2人にしか、代打は送れなかった。3番福留、4番糸井、5番中谷とクリーンアップが続く。当たり前の話だが、クリーンアップの打線の核である。
「中谷が最後のバッターとなり、ゲームセット。中谷が出塁すれば、次打者は大山。あと、代打を送ることができるとしたら、大山しかいない」(前出・同)
中谷が打席に向かう際、何人かのコーチが金本知憲監督(50)のほうを見たという。中谷は一軍昇格後、首脳陣の期待に応えてきたが、「格」という意味で、「中谷に代打・鳥谷」となっても、ファンも納得したのではないだろうか。
「いや、鳥谷の打率は1割4分3厘ですよ。個人の記録のために『試合を捨てた』と思われたかもしれません」(前出・同)
最後まで勝利に徹した金本采配は間違っていない。しかし、植田、糸原のところで鳥谷を出そうとしなかったということは、記録が止まっても仕方がないと考えていたのだろう。
関西地区で活躍するプロ野球解説者がこう続ける。
「極度の打撃不振に陥っている鳥谷を一軍ベンチに置いていたのは、記録のこともありました。翌日から記録更新のことを気にしなくて済むわけですから、二軍落ちということも十分に考えられます」
一般論として、チームに強い影響力を持つベテランを二軍落ちさせた場合、選手に緊張感が芽生えるか、崩壊のどちらかである。鳥谷の記録を止めた試合に勝っていればまだ良かった。金本監督は鳥谷の記録を犠牲にしても勝てなかったのだ。
「6月の親会社の株主総会で、質問が出るでしょうね。今回の鳥谷の記録が止まったことはもちろん、チームの低迷、若手が伸び悩んでいる現状について厳しい批判が出そうです」(ベテラン記者)
金本監督が就任して以来、ここ2年は株主総会でタイガース批判は出ていない。その理由は「金本監督が若い選手を育てている、その若手が一人前になれば」という期待感があったからだ。しかし、金本政権下で頭角を現した若手は2年続けて活躍したことがない。「一体、何をやっているんだ!?」との批判がそろそろ出たとしてもおかしくはない。
「昨年オフ、金本監督は契約期間を延長させました。でも、プロ野球界の契約なんてアテになりません。ファンが指揮官交代を望めば、自ずと本社にもそういう空気が漂い始め、結局はそうなってしまうのが阪神の体質でもあります」(前出・同)
鳥谷が生え抜きだ。長く現役を続けてこられたのは、周囲も記録更新を後押ししていたからだ。その必要以上の配慮は鳥谷も本意ではなかったはずだ。だが、長くチームを牽引してきた功労者である。しかも、生え抜きだ。
「巨人の高橋監督、千葉ロッテの井口監督も現役を引退したシーズンの翌年から監督に就任しました。そういう指揮官の選び方も球界に定着しつつある」(関係者)
ポスト金本に鳥谷を推す声が大きくなっていきそうだ。(スポーツライター・飯山満)