たばこ税引き上げは来年度税制改正の焦点のひとつになっている。来年度予算案における社会保障費の抑制幅2200億円をできるだけ小さくする財源として、毎度のことながら愛煙家がターゲットにされた。
健康ブームのさなか、公共の喫煙スペースは加速度的に縮小中。増税によってたばこが吸えなくなっても「むしろ健康にいいじゃないか」と屁理屈をこねて突っぱねられるから、政府にとっては実に都合がいいのだ。
ところが、ここにきて自民党税制調査会はたばこ増税を税制改正大綱に盛り込まない方向に動いた。首相もこれを尊重せざるを得ない状況にある。社会保障費の抑制幅を小さくするためには別の財源を考えなければならず、首相は難しい局面に立たされた。
JTをはじめたばこ関連業界は今回も増税に猛反発しているが、お上が決めてしまってはさからえない。本来であれば首相が裏で「たばこ増税」を指示すれば決まる話であり、麻生氏も本心ではたばこ増税に踏み切りたい意向とされる。
しかし、支持率急落で首相の求心力・神通力は急速に弱まった。ヘタに指示して通らなかった場合、逆に政権の致命傷にもなりかねない。泣く泣く党税調の意向を汲むことになったわけだ。
麻生首相にしてみれば、どうせ増税できないんだったら、敵にするかもしれなかった愛煙家を味方につけたいところ。喫煙率は下がってきているとはいえ、いまだ国内には約2700万人のスモーカーが肩身を狭くしてスパスパ煙を吐いている。漫画好きで秋葉原のヲタク層に人気のある首相だが、支持率低下で少しでも味方を増やしたいのだろう。
10日、記者団に対して、まるでたばこ増税などハナから考えていなかったといわんばかりに語った裏にはそんな事情が透けて見える。なにも減税したわけじゃないが…。