都内に住む40代会社員のAさんは繁忙期で朝から晩まで仕事に追われる中、脇腹のピリピリ感を自覚していた。仕事も忙しく自然に治るだろうとそのまま放置していたが、1週間ほどで湿疹が出てきて痛みも強くなる一方。さらに激痛に耐えきれずに病院を受診すると「帯状疱疹(ほうしん)」の診断を受けた。重症化しており1週間の入院を余儀なくされその後、半年以上痛みで苦しめられるようになる。
近年、このようなケースは珍しくなくなっている。帯状疱疹の好発年齢は50歳以降といわれているが、近年、帯状疱疹の罹患率は上昇しており、最近、20〜40代での発症が増えているのだ。重症化すれば入院が必要になるケースも多く、強い痛みと残存する神経痛は生活の質に大きな影響を及ぼすことになる。
帯状疱疹とは、水痘・帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる感染症。ただし、初めて水痘・帯状疱疹ウイルスに感染した時は、水ぼうそう(水痘)として発症する。このウイルスが活性化することで起きるのが帯状疱疹だ。ピリピリとした痛みと赤い斑点、小さな水ぶくれが帯状に出る症状から「帯状疱疹」という病名になった。
小児で一般的なウイルス感染症である水ぼうそう(水痘)は、治った後もウイルスが神経節というところに潜んでいる。免疫が落ちてくるとウイルスが活性化し、帯状疱疹として神経にそって症状が出てくる。そのため、好発年齢は免疫が落ちてくる高齢者に多く、若年層では疲れがたまってくる決算期、連休後、お盆後、12月の暮れなど疲労が重なる時期に多いといわれる。
20〜40代で帯状疱疹が増えている原因としては2014年の水痘ワクチン小児定期接種化が挙げられる。従来、20〜40代の子育て層は水痘に自然感染した子どもと接触することで免疫のブースター効果(水痘ウイルスと接触することで免疫が賦活化すること)を得ることができ、帯状疱疹の発症が抑えられていた。
しかし、水痘患者が少なくなったことでブースター効果が得られなくなり、免疫が減弱化し、20〜40代で帯状疱疹の発症が増えてきてしまっているのだ。
帯状疱疹の症状としては皮膚の痛み、洋服に肌が触れたときの違和感やかゆみが数日から1週間ほど続く。その後、虫刺されのような湿疹が出現し、微熱や頭痛などの全身症状がみられることもある。湿疹は水ぶくれとなり、やぶけてただれた後に徐々に治癒に向かい約2週間程度でかさぶたとなる。当初、表面がピリピリするような痛みも徐々に神経に広がり、皮膚症状が収まった後も痛みだけは数カ月以上残ったとの報告もある。
神経は肋骨に沿って走っており、帯状に痛み、湿疹が広がることから帯状疱疹といわれる。帯状疱疹が及ぶ場所により、便秘や尿閉が起きたり、顔に帯状疱疹が広がると顔面の麻痺や、味覚障害などの症状が出現することもある。激烈な疼痛や全身の症状がある場合には入院の上、抗ウイルスの点滴やステロイドの全身投与が必要だ。
一度感染してしまった水痘ウイルスを排除する術は今のところはない。帯状疱疹は免疫力の低下により発症するため日ごろの体調管理が重要となる。特に忙しい時ほど免疫も低下しやすいため少しでも身体を休める時間を取りたい。また、50歳以上では帯状疱疹の予防のためのワクチン接種が可能だ。帯状疱疹は皮膚の病気と思われがちだが神経の病気でもある。放置すると神経痛などの後遺症で10年以上悩まされることもあるため、皮膚のピリピリを感じたら早めに皮膚科を受診することをおすすめする。
参考:
恩賜財団済生会 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/herpes_zoster/
皮膚科学会
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa5/q11.html
国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2433-iasr/related-articles/related-articles-462/8235-462r07.html
文責:医師 木村ゆさみ