昨年、日本で、『あたしおかあさんだから』という歌が話題になった。この歌は、「母親だから、おしゃれを我慢して自分より子供を優先する」と、母親の自己犠牲について歌っていたが、子育ては我慢の上に成り立っているという考え方に「母親のリアル」「我慢することだけが母親ではない」など賛否の声が挙がっていた。
しかしドイツ人は、子育てにおいて「子供のために」という考えを必ずしも持ち合わせていない。むしろ、「親が楽になること」が重要視される。
まず、ドイツでは親を助けるアイテムとしておしゃぶりが推奨されている。日本ではおしゃぶりは「歯並びが悪くなる」と言われ、避けられがちだ。しかしドイツでは子連れを見かけるたび、乳児から1歳近くの子供まで、ほとんどの子供がおしゃぶりをしていることに気付く。ドイツではおしゃぶりを子供に与えて、泣きやませるよう勧めている。
「子供の泣く声は親にとってもストレス。1カ月検診の際、医師からおしゃぶりは親にとって大きな助けとなるから使うべきだと言われました。ドイツでは子供のために何かをしなさいというより、どうすれば親が楽に育児ができるか話してくれる医師も多いですね」(ドイツ在住日本人女性)
ちなみに、ドイツ人医師いわく、おしゃぶりは歯が生えそろう2歳くらいまでにやめれば歯並びに影響はないそうだ。
また、ドイツではベビーシッターを頼む敷居が低い。ベビーシッターをやむを得ずにお願いするというより、親が適度に子育てから離れるために積極的に利用している人が多いようだ。価格は1時間10ユーロ(1200円)ほどで友人の親戚や知り合いなどの口コミを通じてお願いする場合がほとんど。知っている人に頼んだ方が安心感があるようだ。2〜3時間お願いして、夫婦で食事を楽しむような使い方もされている。
「子供が小さいと、ゆっくり食事ができず、キッチンで立って食べることも多い。そんな生活をしていたら、精神的にも追いやられるから、1カ月に一度くらいはシッターさんにお願いしてゆっくり食事を取ることも大切だと、ドイツ人ママに口々に言われました」(前出・同)
また、ドイツでは子供を一人で寝かせることで子育てから離れる時間を持つようにしている親が多いようだ。日本では一緒の布団やベッドで子供を寝かせる人も多いが、ドイツ人助産師は、子供を親と同じベッドで寝かせることを勧めないという。理由は、親が寝返りを打った際、子供に覆いかぶさるリスクがあるほか、何より親が子供に覆いかぶさるのが心配して寝られなくなるからだという。
24時間子供のそばにいることが大切ではなく、親ができるだけしっかりと寝られて、健康な心と体でいられることのほうが重要と考えているようだ。なお、ドイツでは赤ちゃんの頃から子供は別の部屋で一人で寝るが、親が子供を見守ることができるよう、ベビーモニターを付けている。
ドイツでは、親が楽に子育てができるように考える雰囲気が、社会全体にあるようだ。