同点の延長10回裏、一死一、二塁とサヨナラ勝ちの好機を掴んだ。そこで打席がまわってきたのは「7月の打率は3割7分5厘」と絶好調の吉川尚だった。この日もすでに、2安打を放っている。だが、代打で送られたベテラン阿部は期待に応えられず、平凡なレフトフライ。そのまま、試合も落としてしまったのだ。
「一時はなかなか安打が打てない時期があったが、また調子が戻ってきている。さらに日々、成長してほしい」
“本心”は応えてくれなかった。
勝敗は結果論だ。代打失敗も結果論だから、采配を責めるつもりはないが、この選手起用に対し、別の見方をする関係者も少なくなかった。
「過去2年と同じ。まだ取り戻せる時期ではあるが…」(プロ野球解説者)
過去2年、高橋監督は優勝の可能性がなくなった後もベテラン勢をフル稼働させ、クライマックスシリーズ出場に“全力投球”してきた。人気球団である以上、試合を捨てることはできない。だから、若手の育成が遅れたのだが、首位広島が独走態勢を固めつつある今、高橋監督は「若手をもっと登用するか、広島追撃のため、ベテランも駆り出しての総力戦」のどちらかを選択しなければならないのだ。
「チームが勝っていれば、試合途中から若手を出して実戦経験を積ませることもできます。度胸の据わった指揮官なら、勢いのある若手をスタメン起用するケースもありますが、高橋監督はそのどちらでもありません」(前出・同)
ベテランを総動員させ、CS進出が果たせなかった昨季、巨人に残ったのは虚しさだけだった。
「ヒット1本でサヨナラ勝ちという、先の10回裏、2年目の吉川尚を打席に立たせて負けたほうが、傷口も小さかったかもしれない。まして、11回表に決勝点を奪われたのもベテランの上原でしたから」(ベテラン記者)
チームが停滞している時期だからこそ、若手を使うべきという意見だ。
ある関係者によれば、二軍で好投している2年目の高田萌生(20)の一軍昇格案が検討されているという。「未完成な状態で一軍昇格させるよりも、二軍でもう少し鍛えてから一軍に」の声もあるそうだ。
こういう情報を聞かされると、総力戦に加えるべきではない若手もいるようだ。無理をさせて故障するようなことになれば、ここまで育ててきた二軍首脳陣もショックを受けることになる。
「育成枠にいたマルティネス(25)を支配下登録しました。大砲タイプの彼の昇格は時間の問題ですが」(関係者)
先の関係者がこう続ける。
「ファンは若手の起用には寛大です。巨人二軍には、期待が持てる若手が投打ともに少なくありません。敗戦の言い訳作りで若手が大量に一軍に送られることも考えられます」(前出・ベテラン記者)
若手に一軍戦を経験さけなければ、成長はない。かといって、無理をさせるのも宜しくない。高橋監督がベテランにこだわるのはこの辺に理由があると指摘する声も聞かれた。
若手起用を連敗脱出の突破口にするのならともかく、CS進出を失敗した敗戦理由にされたら、ファンも納得しないだろう。高橋監督は近々に広島追撃の態勢を整えなければ、昨季同様、また虚しさだけが残ってしまうだろう。(スポーツライター・飯山満)