『相棒 season10』は神戸の卒業に向けて演出されている。初回スペシャルでは偽証という神戸の過去の犯罪が明らかになった。嘘をつくことへの道徳観念が低い日本社会では偽証は軽視されている。それ故にこそ偽証が明らかになった神戸に刑事を続けさせるかで社会派ドラマの真価が問われる。
第11話「名探偵再登場」では神戸が遅刻の常習犯として描かれ、捜査に置いてけぼりにされる。相棒失格である。神戸がいなくても捜査は進むことを示しており、今から振り返れば神戸退場後の『相棒』への不安を払拭する効果がある。実際、鑑識の米沢守(六角精児)の方が杉下右京(水谷豊)の推理の相棒として活躍するシーンが多い。
そして今回は神戸が元警察官・国原(石垣佑磨)の犯罪を自己の偽証と重ね合わせる。偽証が重大な犯罪である理由は、真実を述べると宣誓した上で虚偽を述べる点にある。「宣誓」をタイトルとした今回に神戸が自己の偽証を振り返ったことは好演出である。
一方で今回の警察犯罪はスケールが小さい。警察上層部も絡む組織悪と戦ってきた『相棒』としては物足りなさが残る。不正警官が最後は正直になって無理矢理に感傷的な話にまとめられたが、その言動は一貫性に欠け、正直になることが遅すぎる。
正直であることを信奉していたならば真実を公表しようとする記者を必死に止める必要はなかった。次の取り調べでは正直に話そうと決めていたとするが、次の取り調べがない可能性の方が高かった。その場合は真実を話さずに終わってしまう。
元警官が宣誓する姿を見て「やっと覚悟ができた」と語る神戸も自己の問題への対処としては遅い。そもそも神戸と元警官は同列に並べられない。元警官は証拠を捏造し、別件逮捕しようとした。この点では神戸よりも悪質である。元警官と重ね合わせて神戸の罪を語るならば、神戸が過剰な悪役になる上、偽証そのものの問題性が見えにくくなってしまう。
元警官自身も無実の人間を陥れて死なせてしまった結果には悔恨を抱くが、犯人逮捕のために違法な手段を使ったことへの反省は薄い。この手段を選ばない点は右京とも共通する。右京と元警官の相違点は犯人特定の推理が正しかったか否かのみで、結果オーライの世界になる。手続きの適正を無視している点に右京の正義の歪みがあるが、神戸のような自覚にも欠ける。「右京の正義は暴走するよ」と忠告した小野田公顕官房長(岸辺一徳)も今はいない。
記者会見での発表によって、神戸の退場は既定事実となり、視聴者にとっては結末を予想する楽しみが減った。退場の理由も大筋は偽証の責任をとるためと容易に予想できる。単純に神戸が退場するだけで終わるのか。それとも超然として正義を追求する右京にも動揺や自省させる展開が加わるか。後半戦から目が離せない。
(林田力)