IWGP史上に残る激闘だった。大谷は中邑戦前に、特別な思いを胸に秘めていた。「橋本真也の魂を背負って戦う」。4年前に亡くなった橋本さんの遺伝子を持つ男は、破壊王の代名詞というべきIWGP王座を奪い取ることを誓い、破壊王の得意技だった水面蹴り、ケサ斬りチョップを叩き込んでいく。それだけではない。中邑の執拗な腕攻めにあい、何度も苦痛に顔をゆがめるが、決して後退することはない。諦めない心こそ橋本さんの真骨頂であり、この日の大谷の戦う姿に破壊王の姿がダブって見えた。加えて、ZERO1の代表として「負けられない」との意地もある。
引けないのは中邑も同じだ。ストロングスタイルを探究する中邑は、IWGP改革に乗り出したばかり。まして初代IWGPベルト奪回に向けて、対アントニオ猪木を掲げた以上、初防衛戦でつまづくわけにはいかない。
互いの信念が交錯するほど、試合はヒートアップ。最後は中邑がボマイェで辛くも王座防衛に成功したが、敗れた大谷の心意気はしっかりと観客に伝わっていた。会場は健闘を称える“大谷コール”に包まれた。
試合後には右眼か内側壁骨折で欠場していた前王者の棚橋が姿を見せ、中邑を“暫定王者”呼ばわりし「俺を倒さない限り、チャンピオンと言わせねえ」とIWGP王座の挑戦を表明。リング上では無視を決め込んだ中邑だったが、バックステージでは「いつでもどこでもやってやる」と対戦を受諾。棚橋は17日から開幕する『G1タッグリーグ』で復帰を果たすことから、11・8両国国技館大会での両者のタイトル戦が決定的となった。
また、中邑は「俺は橋本真也を知らない。でも橋本真也の言葉は覚えている。『なにがアントニオ猪木だ!』。俺の狙いはアントニオ猪木ただ一人、ほかの何者でもない」
代弁者を介すつもりはない。「アントニオ猪木の言葉を待つ。ここからは神の領域。答えは一瞬で決まる」。中邑はブレることなく自己を押し通し、運命の時を待つ。