Sさんは北海道でも有数の進学校に通い、成績は優秀。また、校内にファンクラブがあるほどの美人で、多くの生徒から注目を集める存在だったという。
事件当日の3月6日は平日だったものの、Sさんの通っていた高校では、入試試験が行われていたため休校だった。
Sさんは自宅近くのパン屋でアルバイトをしていた。Sさんの勤めていたパン屋は北海道にいくつか支店を構えており、Sさんは支店に勤務していた。3月6日はバイトが休みだったSさんだが、Sさんの友人によるとコーヒーの入れ方の指導を受けに本店へ行く予定が入っていたという。Sさんは本店に電話をかけて「午後1時すぎに向かいます」と従業員に話していた。
午後0時25分、Sさんは自宅近くからバスに乗り込み本店へと向かった。しかし、約束の時間を過ぎても店に現れず、心配したオーナーは外へ探しに出たという。その頃Sさんは、本店最寄りのバス停より3つ先のバス停で降り、化粧品店に立ち寄る姿が防犯カメラに映っていた。
午後1時42分、SさんのPHSに友人が電話をかけたが特に変わった様子はなかったという。電話では「もう市街地に着いた」とSさんは話した。しかし事態は急転。4分後の午後1時46分、友人が再びSさんに電話をかけると「今は話せないから、後でかけ直すね」とすぐに電話を切られてしまった。
そして、この電話を最後にSさんの足取りはつかめていない。帰宅が遅いSさんを心配した両親が翌日の午前1時すぎに警察へ失踪届を提出し、警察は捜索を開始した。
警察が捜査を進めると、PHSの交信記録から電話をかけていた場所が本店のすぐ近くだったということが判明。警察はバイト先の従業員やオーナーが何か知らないか事情聴取した。
特にコーヒーの講習でSさんと会う予定だったオーナーには3日間にわたる徹底した事情聴取が行われたようだ。その中でオーナーは「午後1時30分までSさんを待っていたが、来ないので外出した」「その後、体調が悪くなったので自宅に帰り寝ていた」と証言し、事件への関係を否定。警察はオーナーの所有する車両を押収し、自宅と店舗まで調べたが、事件との結びつきは一切確認されなかった。
2001年4月12日の『週刊新潮』(新潮社)の記事では従業員のオーナーに対する評判が書かれていた。「パートで働いていた30代後半の既婚女性と不倫」「若いバイトの女の子には積極的に食事を誘っていた」「オーナーが贔屓にする女性は目が大きくて髪が長く細身。Sさんも同様の美少女だったのでまさかと……」と元女性従業員は話したという。
Sさんの失踪には不可解な点が多く残されている。オーナーはSさんが現れないので探しに出たと言うが、その前になぜ電話をかけなかったのか。そもそも、平素、コーヒーの講習はなかったというパン屋の従業員の声もある。また、才色兼備なSさんは、ストーカーに悩んでいたという話もあったという。失踪前、Sさんはストーカー被害に遭っていることをパン屋のオーナーや支店長に相談していたという。
事件への関与を疑われた影響からか、店は経営不振に落ち込み閉店。その際、警察は重機を使って跡地を掘り出したが何も見つかなかったそうだ。
Sさんはなぜパン屋本店近くのバス停で降りず、約束時間をすぎても店に連絡をしなかったのだろうか。繁華街でいったい何があったのか。電話をかけなかったオーナーといい、事件には不可解な謎が多く残されている。