財団法人警察協会により制作された『なくせ! ストーカー!』という作品がある。タイトルの通り、ストーカー犯罪の実態を描いたドラマだ。現在は封印してしまった不思議ちゃんなキャラで多くのバラエティに出演していたゆうこりん。人気絶頂の彼女を主演に据えた本作はニュース番組などでも紹介されたので、覚えている人もいるかもしれない。
しかし、実際に見たという人は少ないことだろう。何故なら本作は自治体制作の「啓発フィルム」だからだ。啓発フィルムは「麻薬はしちゃいけない」「税金の使われ方を知ろう」など、国民を啓発するべく作られた映像作品のこと。レンタルビデオ店に並ぶことも、テレビで放映されることもないため、なかなか人目に触れる機会が少ない。
『なくせ! ストーカー!』は大学が舞台。地方から上京してきた佐藤慎也は、同じ授業を受けているゆうこりん演じる吉川綾乃に恋心を寄せている。しかし、友人作りに出遅れた慎也は既にグループを作ってしまった彩乃となかなか話すことができない。グループの輪に入れないでいる。
そんな時、彩乃と街中で偶然出くわした慎也。彩乃は映画鑑賞の約束をすっぽかされており、そのまま慎也を映画に誘う。かつてない幸運に喜ぶ慎也。このチャンスを活かそうと考え、今度は自ら映画に誘う。結果はOK。これに気を良くしてすっかり彼氏面をしてしまう。
しかし、彩乃は映画に応じただけでデートに応じたわけではなかった。慎也のメールや電話に戸惑いを覚え、少しずつ避けるようになる。焦った慎也はさらにメールを出すが、彩乃は友人たちに相談し、グループ単位で慎也を排除してしまう。完全に拒絶された慎也は誤解を解こうにも解けなくなり、大学にも行きづらくなってしまった。そして、ついには彩乃に憎しみを感じ始めてしまうのだ。
これは特殊で異常な人間を扱った作品ではない。あなたにも異性に優しくされて勘違いしてしまった経験がないだろうか。些細なすれ違いと不運の積み重ねがストーカーを作ってしまうのだ。本作を見ると、勘違いされやすいストーカーの特性を知ることができる。
男女が結婚に至るには多くの障害を越えなければいけない。もちろん、きちんとした意思の疎通もその一つだ。ゆうこりんが意中の人と結婚前提交際できてるのも、本作の教訓が頭にあったからなのかもしれない。
(啓発フィルム研究家・菊池良)