『ONE:A NEW ERA-新時代-』
▽3月31日 東京・両国国技館 観衆11,098人(超満員札止め)
ONEチャンピオンシップ(ONE)初の日本大会となった両国国技館大会。客席を見るとアジア圏の来場者が多い。多数の海外メディアも早くから会場に詰めかけていた。演出や映像の作り方も日本とは明らかに違う。世界最大のプロレス団体WWEが初めて単独で日本公演を行った時と似ている。ONEのパッケージで、少しだけアジアンテイストを強めにしたのが、今回の両国大会だったのではないだろうか。
そんな中、7試合のプレビューマッチの後に、K-1などで日本でも活躍したキック界のレジェンド、アンディ・サワー(オランダ)が久々に来日。しかし、ヨドサンクライ・IWE・フェアテックス(タイ)に一方的に攻められ2R、わずか51秒でKO負けを喫した。サワーは「蹴りではなくボクシングで来たので衝撃を受けた」と敗因を分析していたが、ショッキングな結末だった。
「24年間生きてきたのはこの日のためにある。スーパースターのDJをKOして、新時代を築きます」
大会直前にこう話したのは24歳のパンクラシスト若松祐弥。UFCからベン・アスクレンとのトレードで、ONEに移籍したDJことデメトリアス・ジョンソン(アメリカ)のONEデビュー戦の相手に抜擢された。この試合はフライ級ワールドGP準々決勝。ONEとパンクラスの提携がきっかけで、若松が抜擢されたのだ。ONEには2度目の出陣、前回は判定負けだったが、会見では誰よりもギラつきを放っており印象に残った。
「作戦というのはなくて、本当に全部の攻撃で仕留めるということを考えていました。技術は絶対あっちの方が上なので。ハイキックを警戒していたのと、右ストレートを合わせてくるだろうと。でも狙っていた攻撃が当たったので、打撃も出ました。そういうのが全部通用したし、組まれたら終わりだと思っていたのに全然立てた」
試合は2Rフロントチョークで敗れたが、試合後、若松の目からギラつきは消えるどころか増していた。それだけ、UFCでトップを張った男に若松のスキルが通用したのだ。
「俺が主役だと思ってやってきました。負けたのはめちゃくちゃ悔しいですけど、世界の感覚と渡り合えたし、それは俺しか体験していないことで、間違いなく自信になりました。パンチが当たった感覚で相手がひるんだことも覚えています」と若松は手応えを口にする。
「めちゃくちゃ悔しいです。でも、この手応えが肥やしになると思っています。いままでの人生で一番興奮しました。夢の中にいるみたいで。ぶっちゃけ、いつもは試合前、あんなに気合いを入れたことないんですけど、今回は本当に死んでもいい覚悟でやってきました。でも、まだ甘かったです」
人生の全てをかけて挑んだ一戦は結果は黒星となったが、それをはるかに上回る収穫があったようだ。甘いマスクの持ち主で、コメントにも芯がある。24歳とまだまだ伸び代があるのが魅力的だ。このままONEとパンクラスの舞台でうまく育てていけば若松自身がスーパースターになれる可能性はあると言ってもいい。それぐらい今から“見ておくべき”選手である。
「負けて言うのもなんですけど、僕の方が技術的にも威力も上だったと思います。寝技は、もっと差があると思っていましたが、組んで倒せたし、立ち上がれました。全然、そんなにできないわけじゃないなと思いました。今回は、右のアッパーと左フックも当たりました。総合の打撃は僕がトップだと思います。キックやボクシングはまた違いますけど、総合での打撃は僕がフライ級でトップだと思っています」と若松は続けた。
今後については「これで(予定が)全部崩れてしまったんですけど、終わってみたら、思ったよりスッキリしたし、極められたけど惨敗ではなかったと思っています。立ち直って、最強のMMAファイターになりたいです。今、その手応えがあります。特に打撃では、絶対に僕の方が強いと思います」
世界のDJと日本で闘い、敗れはしたが「総合の打撃は俺が一番」と確信を持てた。あとはまだ「一番」になれていないピースを埋める作業をすれば、最強のMMAファイターになれる。「スッキリした」という若松はとても輝いていた。次戦はどんな試合を見せてくれるのか。3度目のONEでは結果も求められるが、ギラつきがあればやってくれるだろう。さらなる飛躍に期待したい。
日本初大会のメインはDREAMなどで活躍した青木真也が、エドゥアルド・フォラヤン(フィリピン)のONEライト級王座に挑戦。大青木コールの中、青木は1R、2分前にタックルでテイクダウンを奪うと、そのまま肩固めを極めて一本勝ち。見事、王座奪還に成功した。
「35歳になって、好きなことやって、家庭壊して、一人ぼっちで格闘技やって、どうだお前ら?うらやましいだろう。俺はな、こうやって、明日もコツコツ生きてくんだよ」
試合後、マイクを持った青木は久々に青木節を全開。試合前はナーバスになっていただけに、とても晴れやかな表情を浮かべた。最後は「みんな俺たちのファミリーになってるから、みんな頼むぞ!俺たちはファミリーだ!ケツにGOって書いてあるけどな、みんな明日もGOだ!」と絶叫し、青木らしく強引に締めた。
インタビュールームで青木は「日本でやると決まってから、この大会を引っ張るためだけに1年間やってきた」と強調。まだONEが小さかったころ、DREAMがなくなり、上がるリングがない中、「チャトリ(会長兼CEO)が拾ってくれた」恩返しをするため、今大会成功にかけていたことを明かしている。
チャトリ・シットヨートン会長兼CEOは「ツイッターのトレンドで日本とアジア、そしてアメリカでも1位だった。アメリカの団体を集めて対抗戦もやってみたい。世界には若松のようなまだ知られてない素晴らしい選手がいる。青木は傷ついている世の中を闘いを通じて癒やしていこうという、われわれが目指していることを実践してくれた」と総括した。
次回の日本大会は10月の予定。初の日本大会は運営面のバタつきがあったものの、また見たいと思わせるような大会だった。ONEは生観戦をオススメしたい。渋谷から30分で行けるシンガポールは素敵な空間だった。
取材・文 / どら増田
写真 / 萩原孝弘