果たして、これで完全な調査はできるのか? 削除したメールの復元は可能だが、通話に関しては通話先、日時しか特定できず話の内容までは分からない。ましてや、八百長をやった力士本人ではなく、第三者に仲介を依頼していた場合、電話やメールではなく直接交渉していた場合は、携帯電話に証拠は残っていない。
預金通帳なんて出しても、さしたる意味はない。記帳していなければ分からない。未記帳分の個人情報を銀行が教えてくれるだろうか? そもそも、銀行振込ではなく直接受け渡ししていた場合も多いだろう。これだと、証拠は残らない。「メールに名前は挙がっていたが、実際には八百長をやっていない」と主張した力士を、クロと断定できるのだろうか? この調査はやらないより、やった方がマシだが完全とはいえない。自白した力士はクビが飛び、シラを切った力士は生き残る可能性すらあるのだ。
この14人は野球賭博に関与した元前頭・春日錦の竹縄親方(春日野)と千代白鵬(九重)の携帯電話が、たまたま警察に押収された結果、浮上した力士たちである。これ以外の関取については、「八百長をやったことはあるか?」との聞き取り調査のみで終わるのか? そうであれば、物証が残っている14人と違い、携帯電話を調べられることもなく、「やっていません」と回答すればすむことだ。
ちゃんと全容を解明したいなら、全力士の携帯電話を調べるくらいのことはしないと無理。そこまでしたら、いったい何人クロが出るか分からないからしないのか? もし、横綱や大関から出てしまったら困るからできないのか…。
そもそも、八百長は犯罪ではない。建て前、任意とはいえ、個人情報を調査することは法に触れないのか? 今回の14人への調査でクロだと判明し、クビになった力士が後で、「同意書は強要されたものであって、プライバシーの侵害等に当たる」などと提訴してきたら、日本相撲協会は勝てるのだろうか?
(ジャーナリスト/落合一郎)