『バクマン。』の魅力は漫画出版業界の内幕を明らかにするリアリティにある。亜城木夢叶は実在の雑誌『週刊少年ジャンプ』に連載しているという設定であり、登場する編集者も実際の編集者をモデルとした人物ばかりである。『週刊少年ジャンプ』の読者アンケートの仕組みも明らかにされ、亜城木夢叶はアンケート上位を目指して奮闘する。
亜城木夢叶は毎週のアンケートの順位を気にしており、上位を獲得するために様々な試行錯誤を繰り返す。その勤勉さ・熱心さは漫画家の伝統的なイメージとは対照的である。手塚治虫や藤子不二雄のような巨匠でも、作品中に搭乗する漫画家の自画像は締め切りに追われるマイペースな存在であった。
ここに『バクマン。』のユニークさがある。ライバルの人気漫画家・新妻エイジを考えなくても描ける天才型とすることで、亜城木夢叶の計算型を際立たせた。一方で漫画が亜城木夢叶のように計算し尽して描かれていると知ることは、読者の漫画への愛着を萎えさせる面がある。この巻では亜城木夢叶以上に計算高い漫画家・七峰透を悪役として登場させることで、亜城木夢叶の漫画へのパッションを描いた。
亜城木夢叶はライバル漫画家達と激しい競争関係にあるが、切磋琢磨する仲間であるとの一線は守っていた。恋愛感情のもつれからドロドロ展開になりかねない秋名愛子(岩瀬愛子)との対決も、きれいにまとめられた。大まじめな秋名の言動が笑いを生むというユーモラスな効果もあった。それに比べると、七峰透との対決はガチンコ色が強い。緊迫感は従来以上であるが、物語を暗くしてしまう。
その暗さを補うスパイスが平丸一也のギャグパートである。平丸のような「働きたくない」型の漫画家もいることが、計算ばかりの漫画家像への食傷感の癒しになる。さらに懐かしのキャラクターの再登場によって、亜城木と七峰の対決の本編と平丸のギャグパートに接点が生じる予感で終わる。二つの話が結びつく次巻にも注目である。
(林田力)