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NHK『西郷どん』余聞――文明開化『太陰暦』から『太陽暦』への転換がもたらしたもの

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提供:週刊実話

 NHKの大河ドラマ『西郷(せご)どん』の第42回「両雄激突」が11月11日に放送され、主人公の西郷隆盛と盟友・大久保利通の対立が決定的となった。

 この回では、1年半ぶりに帰国した大久保に政府内には居場所はなく、さらに欧米使節団としてほとんど成果を上げられなかったことを責められ孤立する。留守政府を任され、近代化政策を推し進めていた西郷とも溝は深まっていく…という展開だった。

 実は同回が放送された2日前の11月9日(1872年)は実際に明治改暦、つまり暦の変更が布告された日だったのだ。西郷らの明治政府は、日本の制度を西欧の制度に変更する改革(文明開化)を次々と進めた。

 このような文明開化の中で、社会に大きな変化をもたらしたのが、日本が長年使用してきた太陰暦から、西欧社会で使われている「グレゴリオ暦」(太陽暦)に転換するという改暦詔書を出したことである。

 改暦は、東京五輪に合わせて日付ではなく、時刻を変えるだけのサマータイムの導入でも、2年先に実行するかどうか議論されるほど社会に多大な影響をもたらす。

 太陽暦実施に1カ月も準備期間がなく、大変な混乱をもたらすのは分かっているのに、なぜ明治政府は拙速に布告したのか。それは西欧社会に合わせるという表向きの理由だけではない経済的な理由があったからだ。

 「江戸時代には武士は何石という年俸制度でしたが、明治政府になり役人の給料は月給制になりました。ところが新政府は成立早々、戊辰戦争などで費用を使い、財政難に直面していたので月給を1カ月分ちょろまかしたのです」(歴史研究家)

 太陰暦は月の満ち欠けによって、新月から新月まで29.5日間が1カ月で、1年は354日になるので11日も短いため3年で1カ月の誤差が生じる。そこで3年に一度、閏月を加えて13カ月にすることで調整していた。つまり改暦により、役人へ月給を1カ月分払わなくて済んだわけだ。

 太陰暦は、現在でも次の分野で利用されている。①海洋生物の生殖行動は月齢と関係深いので、漁業は月齢に合わせて行うことが多い。②イチゴやサツマイモ、またダイコンは満月のときに収穫するとスが入りやすいので、新月のときに収穫する。③多くの虫は満月の3日前に交尾し、満月の日に産卵し、満月の3日後に孵化するものが多いことから、害虫の駆除は満月の3日後が適切とされる。

 そして月と戦争は古今東西密接な関係にあった。

「本能寺の変」は現在の暦では1582年6月21日とされており、明智軍は前日の夕方から出発し、新月の暗闇の中を進み、未明に襲撃した。

 1944年6月6日は「ノルマンディ上陸作戦」の日で、未明から作戦開始になった。空挺部隊の降下は月明かりが必要で、遠浅の海岸に上陸するためには、干潮がいいか満潮がいいかの判断も必要だったので、気象予報と同時に月齢の条件が考慮されていた。

 「最近の戦争ではレーダーなどで暗闇でも戦えるため、攻撃は新月の日が選ばれることが多い傾向にあります。湾岸戦争の『砂漠の嵐作戦』の開戦は1991年1月17日でしたが、この日は新月でした。2003年3月20日に開戦したイラク戦争における『イラクの自由作戦』も新月の日でした。北朝鮮の金正恩党委員長が、米国と緊張状態にあったときは、新月の日には地中深くに潜み息を殺していました」(軍事ジャーナリスト)

 役人の給料支払いを抑えるために捨てられた太陰暦だが、まだ世界各地で生きている。

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