当時、加藤が暴れまわったさまを総括するのは、極めて簡単だった。
近くの駐車場誘導員のおじさんが、「陸上選手のようなスピードで、奇声を発しながら駅前交番のおまわりさんから逃げ回っていた」そんな犯行の一部始終を目撃していた。犯人は中央通りを逆行、次々と刺したのを、電器店の男性店員氏がつぶさに目撃していた。彼の見た場所にも、当時たくさんの花が供えてあった。
それから加藤はあの確保された路地へ入った。2人刺していた。路地の奥に人の形のチョーク、熟年男性が刺された目撃証言もあった。
その手前でも一名刺されていた。たまたまその現場に居合わせて救護にあたった長身男性を、スーツ姿で運動靴を履いた新聞記者女性が、ちょうどこの日取材していたのだ。
確保までは、正味2分。目撃証言は一致していた。
事件からしばらくして突然当局の発表があった。犯行の目安時間自体は、やはり2分ということだった。ただ、フジテレビが報じた限りでは、路地での犯行は伏せられたのか、その“正式発表”にはなかったのが気になった。
当時あるテレビ局が路地での攻防を報道後、当局から謝罪させられる事件があったが、釈然としない。ひょっとして(ひょっとしなくても?)、現場の勇敢な格闘にもかかわらず、そこで被害を生じさせてしまったから隠そうとしたのだろうか。
警官はたった2分で、刃物を持って人ごみの中を走り回り、狂ったようにひとり、ふたり…と襲っていく凶悪犯を制圧したのである。アメリカだったら、ヒーローだ。もうすこしプライドがほしいな、と思ったものである。
2年目の夏がやってくる。(了)