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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第332回 民間黒字と政府貨幣発行残高

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提供:週刊実話

 財政赤字とは「=政府の歳出―政府の歳入」で計算される収支だ。政府の歳出が歳入よりも多ければ、当然の話として政府は「財政赤字」になる。

 とはいえ、ここで注意しなければならないのは、「誰かの赤字=誰かの黒字」という原則だ。赤字と黒字はトレードオフの関係にあり、全員が同時に黒字になることは不可能である。

 分かりやすい例として、大相撲の取り組みを考えてみよう。全力士が「勝ち越す」ことはできるだろうか。もちろん、不可能だ。誰かの白星は、別の誰かの黒星。ある力士が勝ち越したとき、反対側に必ず負け越した力士が存在する。

 黒字・赤字も同じなのである。政府が財政赤字になったとき、反対側に必ず黒字の“誰か”が存在する。

 それでは、政府が財政赤字になったとき、誰が黒字になっているのか。もちろん“民間”だ。具体的には、家計、一般企業、海外のいずれかである。

 家計、一般企業、海外、そして政府の四経済主体は、赤字・黒字を分け合う形になる。分かりやすく書くと、四経済主体の赤字額と黒字額を足し合わせると、答えは必ず“ゼロ”になるのだ。

 現在の日本は、経常収支の黒字が続いている。つまりは、海外部門が赤字になっている。さらには、政府の財政赤字も続いている。

 その反対側で、家計と一般企業が“黒字”になっているのだ。海外部門を省くと、政府の財政赤字と、国内の民間部門の黒字はイコールになる。「政府の赤字=民間の黒字」なのである。

 現在の日本政府は、プライマリーバランス黒字化を目指している。これは「民間を赤字化する」こととイコールだ。PB黒字化目標とは、民間赤字化目標なのである。

 より正しく現実を理解するために、今後、財政赤字は「民間黒字」と呼ぶべきだ。現実の話として、「財政赤字=民間の黒字」なのであるから、仕方があるまい。現実から目を背けるのはやめよう。

 ところで、政府の財政赤字が積み上がったものが「国の借金」(正しくは「政府の負債」もしくは「政府の債務」)である。「財政赤字=民間黒字」であるため、政府債務とは「民間の黒字が積み重なったもの」と表現することができる。

 より突っ込んで考えてみよう。

 日本銀行は、日本政府の子会社になる。政府の子会社である日本銀行が、日本国債を市中銀行から買ったとする。すると、国債の債権者が市中銀行から日本銀行へと移動する。日本政府と日本銀行は会計上、連結決算となる。会計ルールに則る限り、そうならざるを得ない。

 いわゆる「統合政府」だが、統合政府のバランスシートを作成すると、日銀保有の国債は「債務者=債権者」となるため、相殺されて消滅する。もっとも、日銀が国債を購入する際に発行した「日銀当座預金」という貨幣は、バランスシートの貸方(右側、負債や純資産を計上する)に残る。

 さて、政府債務、あるいは財政赤字の蓄積の多くは、要するに「国債(及び財投債)発行残高」である。

 日本政府と日本銀行のバランスシートを統合すると、「国の借金!」と、やたらクローズアップされる「国債・財投債」の半分近くが日銀保有ということで消滅する。代わりに、日銀が国債を購入する際に発行した日銀当座預金が貸方に現れる。もっとも、日銀当座預金の内、115兆円は市中銀行に「現金化」されている。

 というわけで、2018年末時点の統合政府のバランスシートの貸方は「現金115兆円」、「日銀当座預金405兆円」、「国債・財投債442兆円」、「その他負債421兆円」となる。ちなみに「その他負債」とは、政府が発行した国庫短期証券や地方債である。

 図を見ると、いわゆる量的緩和政策とは、単に「統合政府の国債・財投債という負債を、日銀当座預金という貨幣に置き換えた」だけであることが理解できる。実際、中央銀行の国債買取について、英語では「Monetization」となる。直訳すると「貨幣化」なのだが、なぜか日本では「財政ファイナンス」と呼ばれている。

 意味不明な日本語訳はともかく、実体として中央銀行が買い取ることで国債は貨幣化される。日本国債が100%日本円建てである以上、国債発行残高(図では国債・財投債)は単に「貨幣化していない政府の借用証書」という意味を持つにすぎないのだ。

 さらに突っ込んで考えてみよう。国債とは、償還期限が決まっており、代わりに金利が多少高い政府の債務(保有者の債権)である。一般の市中銀行において、我々が債権者として保有できる「償還期限が決まっており、代わりに金利が多少高い」預金のことを何と呼ぶだろうか。そう、定期預金である。

 実は、国債とは保有者にとって「定期預金」そのものなのだ。「国債発行残高が積み上がって、政府は財政破綻する!」と煽る者は、市中銀行に対して「定期預金残高が積み上がって、この銀行は破綻する!」と主張しなければ、筋が通らない。もちろん、そんな意味不明な主張をする者はいない。

 お分かりだろう。統合政府のバランスシートにおいて、現金・日銀当座預金は貨幣そのもの。国債・財投債にしても、定期預金という貨幣が名前を変えたものにすぎないのである。

 財政赤字ならぬ「民間黒字」が積み上がった履歴である政府債務、財務省やマスコミの言う「国の借金」は、政府貨幣発行残高なのだ。何しろ、会計上の実態として「そうなっている」以上、否定することは誰にもできない。

 というわけで、今後の日本は正しい表現ということで、財政赤字は「民間黒字」、国の借金は「政府貨幣発行残高」と呼び変えるべきである。財政破綻論者の皆様には、是非とも、
「日本は民間黒字が膨れ上がり、政府貨幣発行残高が膨張して破綻する」
 と、これまで通りヒステリックに叫んで欲しいものだ。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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