▽12日 大田区総合体育館 観衆4,000人(超満員札止め)
「天心!天心!」
前売り券が完売し、当日券も瞬殺。この日プラチナチケットを手に詰めかけた4.000人のファンから、5ラウンド終了間際、今まで聞いたことのない“大”天心コールが自然発生。大田区総合体育館に大声援が轟いた。
「今度こそ負けるかもしれないですよ」
このカードが発表されたとき、ムエタイに精通しているマスコミや関係者の口からは、総合も含めて28連勝中(無敗)の“神童”那須川天心がついに敗れる日が来るかもしれないとか、那須川サイドがよくこのカードを受けたなんていう声も聞かれた。そして、天心自身も「今までやった中で一番強い相手だと思う」と発言したことにより、ファンもまだ見ぬ強豪スアキムが相当強いという認識をインプットしたことで、客席からはこれまでの天心戦では感じられなかったスリリングな気持ちが充満していた。この感覚は、かつて桜庭和志がグレイシー一族と対峙したときと似たものがある。桜庭と対戦した頃のグレイシー一族は、既にファンの間である程度強さが認識されていたが、「一発喰らったらヤバイ」という緊張感から、観客の声援と悲鳴が交差する雰囲気はあのときの感覚と似ている。
いつもよりも少し強張った表情で入場した天心。実は入場直前に勝たなきゃいけないという気持ちや日本中の期待感が頭を過ぎり、ウルっと来てしまったという。しかし、「俺が日本代表だ」と強い気持ちに切り替えて入場ゲートに立った。
1Rはスアキムがミドルを決めてペースを握るが、終始冷静さを失わない天心は、ボディやジャブ、インローを効果的に当てていき、形成逆転。しかし、スアキムは本来スーパーバンタム級の選手でありながら、国内に敵がおらず、スーパーフェザー級以上の階級で戦い勝利をおさめているとあって、フルラウンドまで持ち込まれ、KO勝利を収めることは出来なかったが、気がつけば天心の横綱相撲といえる試合だった。ワンチャローンに続いてスアキムも敗れてしまったPKセンチャイジムだが、「次の相手はいる」と第3の刺客を小野寺力プロデューサーに予告したという。
試合後、天心はデビューしてから初めてといってもいいぐらい、疲れと安堵の表情を見せながらマイクを持ち「久々に5R戦って、スアキム選手は本当に強かったです。いつもなら試合が決まってワクワクするが、今回はワクワクしなかった。2階級上の王者を倒したので僕が最強で良いのかなと思います。皆さんどうですか?これからも勝って最強を証明します」と素直な気持ちを話すと、最後に「KNOCK OUT最高!」と叫んでメインを締めた。
■那須川天心コメント(インタビュースペース)
−−お疲れさまでした。
押忍!
−−試合を終えての感想を。
強かったです。ホントに。ホンモノでした。
−−想像していたのとは違った?
違いましたね。あんなに階級が重いのもありますし、プレッシャーが凄いのもありますし、ホンモノって感じましたね。初めて試合でこんな思いをしました。
−−スアキムの攻撃をかなり抑えていたが、一番ヤバイと思ったところは?
肘とミドルですかね。ミドルが最初受けたときに、同じ階級…今までやって来た選手の蹴りじゃねぇなと。すーごい今も痛くて。僕かわすの得意なんですよ。でもナカナカいなせず…カットしないと絶対蹴って来るので、カットしようとして、ちょっと待ちになっちゃったかな。
−−攻撃が当たってもスアキムは無表情だったが?
それが怖かったですね。ホントに。相手…何で出て来るんだろうって何回も思いました。もちろん(自身の攻撃が)効いてたのもあったんで、最後の最後はもっとまとめたかったですね。
−−ボディとかは手ごたえあった?
腹は効いてましたね。腹は絶対効いてたんですけど、だから、相手も出てこなかった。不用意に入るとまた肘があるかなと思って、なかなか待っちゃったかな。
−−肘は全部かわしたと思うが?
かわしましたね。それは自分の攻撃が当たらなくても肘と攻撃はもらわないと決めていたので。もっと攻めなきゃダメだと思うんですけど。まあ、でも勝てたことは本当に凄いと思うので。出来ればKOしたかったな。
−−苦しい中で勝利をモノに出来た要因は?
要因ですか。うーん。何だろう。やっぱ、日本でやったというのもありますし、一番の要因は最初のスピードで勝てたというのと、あと腹ですね。腹を嫌がった。それからインローを思いっきり蹴れて。インローで凄く嫌がっていたのもあるんで。そこからもあります。きょうの僕のインローは凄く走ってたので。あれがなかったら、たぶんもっともっと前に来ましたし、もっと蹴って来たと思います。
−−5ラウンドの終盤に“大”天心コールが起こっていたが?
そうなんですか?
−−はい。それぐらい今までの天心選手の試合の中で観客も緊張感を持っていたように見えたが?
そうだと思いますね。最後の方は周りの声が聞こえなかったんで、どうかわからないんですけど、自分との闘いに勝てたなと思います。ホントいい経験しました。
−−最後5ラウンドのゴングが鳴ったと同時に、凄く脱力したような感じで自分のコーナーへ戻っていたが、そのときの気持ちは?
もう、やりきったという感じですね。試合でやりきったと思うのはなかなかないんですけど。やりきったかなというのはありました。感情的になりましたね。
−−5ラウンドは初めて“疲れた”表情だったが?
いやー本当に疲れましたよ。疲れました。でも、なるべく見せないようにしてたんですけど、自分が相手を弱らせることが出来たんで、相手はそれよりキツイ状況なんで、それに負けたらダメだと。何回か前にガーッと出て来たんですけど、それを腹で止めることが出来たので、今まで総合合わせて28戦しましたけど、それの経験がホントに活きました。外国人とやって、顔面だけじゃ絶対にヤバイので、腹で止めないとというのがあって、あと、左右に動けて、相手の攻撃が読めたので、それはジュニア時代からの経験…キックを長くやってて本当に良かったなと思いました(笑)。
−−学生時代最後の試合が凄い試合になったが?
そーですね。また、来週からテストなんですけど(報道陣&関係者爆笑)。
−−卒業は大丈夫?
はい。テストさえ赤点取らなきゃ(笑)。そっか…テストかぁ…(報道陣&関係者爆笑)。
(淵脇広報)現実を…
−−失礼しました(笑)。
−−途中セコンドから「気持ちだ、気持ちだ」という声が飛んでいたが?
それはホント励みになりました。ここで心折れたらダメだと。セコンドに助けられました。父親にもホント感謝したいですね。
−−最後まで厳しかった?
厳しかったです。みんな周りの歓声があったからこそ、あそこまで立って闘えたかなというのは感じましたね。
−−きょうはミドルをカットしたり、首相撲の攻防があったり、天心選手の中のムエタイの引き出しを引き出していたが、事前のイメージではそういう闘いになると思っていた?
そういう試合になると思ってましたし、ホント今回はちょっと怖かったですね。ビデオもいつもは見ないんですけど、それは自信があって大丈夫だろうと思って見ないんですけど、今回は見るとちょっと怖くなっちゃうからやめようと思って、2、3回ぐらい見て不安だったので。まあ、でも、負けることはないかなと思ってたんですけど…負けるのかなっていうのも考えましたし。試合前にちょっとウルっと来ちゃいましたね。日本中が期待しているというか、俺が日本代表だというのを心に決めてやりました。
−−ウルっと来た瞬間というのは会場入りしてから?
いや、もう入場する前です。やらなきゃならないという。
−−先週、同じジムで同い年の篠塚辰樹選手がデビュー戦で勝ったというのも刺激になった?
そうですね。チームの勝ちは嬉しかったですね。
−−ありがとうございました。
天心の次戦は5.6RIZINマリンメッセ福岡大会が有力。その前に来週のテストをクリアして、4年間に渡った高校生活からの卒業が待っている。8月には20歳になる“神童”が“神導”になる日も近いだろう。
▼メインイベント 55.7㎏契約(3分5R )
○那須川天心 (3-0 判定) スアキム・シットソートーテーウ●
取材・文 / どら増田
カメラマン / 萩原孝弘