このように出演者の不祥事によって、作品がお蔵入りになったり、未公開になることは決して珍しいことではないのだが、放送事故史を紐解いていくと、不祥事ではなく、逆に「喜ばしい出来事」によってテレビ放送が中止になるケースも存在する。
「あっしには、かかわりのねえこって……」という決めセリフが有名なテレビ時代劇『木枯らし紋次郎』(フジテレビ系)。映画監督・市川崑が監修を行い、後に参議院議員となった俳優・中村敦夫が主演を務めたこの作品は、これまでの時代劇にはなかったニヒルな世界観を作り出し、時代劇に新しい風を与えた。
さて、この『木枯らし紋次郎』だが、放送から20年が経過した1993年、2時間のスペシャルドラマ『帰って来た木枯し紋次郎』がフジテレビ系で制作された。メガホンはシリーズ監修を行っていた市川崑が取り、木枯らし紋次郎役の中村敦夫もそのまま続投となった。
そして、何のトラブルも事件もなく無事に撮影は終了。第一号試写となり、フジテレビ局内で関係者を集めた小さな上映会が開かれた。
しかし、この上映会の直後、『帰って来た木枯し紋次郎』は予定していたテレビ放送が突然中止になってしまう。その理由は……なんと「出来が良すぎた」から。
『帰って来た木枯し紋次郎』の試写を広報室長はこの作品を見て、「出来上がりが良すぎて、地上波だけではもったいない。このまま映画として上映しよう」と決断し、完成から2か月後、東京都日比谷にある映画館で2週間の限定上映が決定してしまったのだ。
その結果、『帰って来た木枯し紋次郎』はテレビに先立ち映画が公開というかなり珍しい興行形態を取り、『帰って来た木枯し紋次郎』は大成功作品となった。
本来、テレビドラマとして制作したものが、「クオリティが高すぎた」ことによりテレビ放送が中止になるとは……改めて昔のテレビドラマにはパワーがあったのだなと感じざるを得ないエピソードである。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)