幼い頃、4人の家族が住んでいたのは、父の会社の社宅。6畳と4畳半の、風呂なし文化住宅だった。近所の銭湯が休むと、玄関の土間で“入浴”。台所の湯沸かし器の蛇口にホースを突っ込んでシャワーにして、回覧板を持ってきたご近所さんに目撃されたことがある。
節約至上主義の父は、とかく金を使うことを嫌がった。剛&礼二はミニカーさえ買い与えられなかった。手をミニカーに見立てて遊ぶことを学んだのは、この頃だ。
小学生の時、頼みこんでようやくもらえたのは、野球のグローブ。だが、「井上」という文字がサインペンで書かれていた。他人からのお下がりだった。
自転車も買ってもらえなかったため、全速力で走って、自転車に乗る友だちと同じ速度を保つことを学んだ。グローブと同じく、頼んでやっと与えられた自転車は、氷屋のリヤカーのお下がり。父がところどころ、ワイヤーで手を加えていた。
父はまもなく、80の大台に乗る。貧乏性は変わらない。
「数珠、作ったんや。見て〜」と、うれしそうに両手を振った。音を奏でていたのは、くるみ。しかも、直径2〜3cmほどの巨大なもの。通していたゴムをグッと引っ張って、「首にもいけんねん」と、ネックレスにもして見せた。
また、スポーツ選手がかけている、直射日光を遮るタイプのおしゃれな眼鏡を手に入れた。剛が「そんなんよぉ持ってたなぁ」と感心すると、「どうしたと思う? 拾てん」。近所の淀川を散歩中、水面でプカプカ揺れる眼鏡を発見し、川の流れで岸辺にたどりつくのをひたすら待って、キャッチしたという。
そして、最近になってようやく実家にやってきたのは、携帯電話。あまりにも大事にしているため、両親は金庫で保管。着信音が鳴るたびに、暗証番号をプッシュして、携帯を取り出すという万全すぎるセキュリティだ。あまりにもつながらないため、2人は結局、実家の固定電話にかける始末だ。
さらに、定年後始めた趣味は、絵描き。力作は、トランプ米国大統領がなぜか弟の礼二と握手をしている絵。礼二は「この先も一生ないぞ」とクギを刺しているという。
関西が生んだ最強兄弟漫才師。類まれな才能は、父の伝承と言えよう。
(伊藤雅奈子)