しかし、入念なリハーサルありきのドラマと、一発本番が肝のコントでは、融通の幅が違う。中川家の好物は当然、後者だ。貧乏だった幼少期から、親せきや先生、近所のおっちゃんや街行く人を観察し、ものまねすることで笑いあっていた原風景が、コント作りのルーツだからだ。その欲望を「仲間」と「遊んでるだけ」で叶えたのが、今年10月にBSフジでスタートした『中川家&コント』だ。
日常にある風景をそれぞれの目線で切り取った、台本なしの25分。厳密にいうと台本は存在するが、「それはスタッフ用に作られたもの」(礼二)で、出演するコント職人たちがそれに従うことは100%ない。正確には「アドリブコント番組」が正しい表現だ。
コント職人たちは、次長課長・井上聡、東京ダイナマイト・松田大輔、アジアン・馬場園梓、とろサーモン・久保田かずのぶ&村田秀亮、2丁拳銃・修士、ネルソンズ・青山フォール勝ち&和田まんじゅう&岸健之助。コンビ芸人の片方だけ、昨年のM-1王者(とろサー)、若手売り出し筆頭株のトリオ(ネルソンズ)というラインナップは、お笑い通を唸らせる。後輩のネルソンズは常に試練を与えられ、中川家以外の先輩にあたる修士は常に敬意を払われる。よしもと特有の縦社会も垣間見られる。
同番組が優れているのは、コント番組は制作費がかかるという概念を逆手に取った点にある。スタジオは基本、白黒のマットが敷かれた小さな1室のみ。演者はスタッフと同様に、黒のTシャツに黒いパンツ。2つの長机、パイプ椅子、ミネラルウォーターが置かれているだけの簡素な溜まり(演者の休憩スペース)でもカメラを回し、オンとオフの境界線をなくす。ゆえに、突発的な笑いがしょっちゅう起こる。
コントのシチュエーションは、居酒屋のお会計の割り勘、国道沿いのお食事処の店員、芝居の稽古場の講師(80年代から関西の演芸シーンを支えている“重鎮”湊裕美子さんにまつわる実話だと思われる)、芸人の地方営業、テレビの企画会議など。芸人がその目で実際に見たのばかり。時には、奈良公園、上野アメ横のお菓子屋というコアなものもある。のみならず、「うちのおじいちゃん(昭和52年)」という、中川家の身内をただ再現しただけのコントもあった。
視聴者を楽しませるのではなく、自分たちが楽しむ。そんな芸人の趣味の時間に立ち会えるのは、ちょっとした贅沢かもしれない。
(伊藤雅奈子)