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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第267回 抽象的な財政議論を排す

 今年の6月に安倍政権は「骨太の方針2018」を閣議決定する。骨太の方針の中に、例年通り「プライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)黒字化目標」が入ってしまうと、来年の消費税再増税や経済の再デフレ化が、ほぼ決定的になる。
 現時点では、達成時期を'20年度から先送りするものの、PB黒字化目標自体は残す。あるいは、今後3年を「構造改革期間」と位置付け、財政健全化の新しい計画を策定するなど、不吉な報道が流されている。

 とにもかくにもPB目標が閣議決定されてしまうと、予算の考え方が、
 「何らかの支出を増やすならば、他の支出を削るか、もしくは増税する」
 という、お小遣い方式に支配されてしまう。日本の場合、高齢化で社会保障支出が増えざるを得ないため、「その分、他の予算(公共投資、防衛費、科学技術予算、教育費など)を削るか、増税」となってしまうのだ。PB目標がある限り、わが国は防災事業や交通インフラの整備、防衛力の強化、科学技術振興や教育の充実に乗り出せないのである。

 さらに困ったことに、わが国がPB目標の影響で公共投資、防衛費などを増やせないと、デフレという「総需要の不足」から、いつまでたっても脱却できない。デフレが継続すると、名目GDP(=総需要=総所得)が伸び悩む。
 名目GDPが伸びないと、税収が不足する。何しろ、GDPとは需要の合計であると同時に、所得の総計なのだ。われわれが所得から税金を支払う以上、名目GDPと政府の租税収入は強い相関関係になる。デフレ継続でGDPが拡大せず、税収が不足すると、結局は赤字国債を発行して対応しなければならず、またもや「国の借金が大幅に増えた! PB黒字化目標の早期達成が必要だ!」と、デフレを深刻化させる緊縮財政の悪循環が継続してしまうのである。

 PB黒字化路線という緊縮財政は、日本国を小国化させ、国民を貧困化させる。それにも関わらず、政治の世界では「国の借金で破綻する」「市場の信認が失われる」といった抽象的な議論で、緊縮路線が推進されているわけだから、情けなくなる。
 国の借金とは要するに政府の国債だ。IMF(国際通貨基金)は、中央銀行が保有する「自国通貨建て国債」について、デフォルト(債務不履行)の確率を「ゼロ」と定義している。中央銀行が中央政府に逆らい、「金を返せ!」などとやることはあり得ない以上、デフォルトの確率はゼロに決まっている。

 本来、「国の借金で破綻する!」などと騒ぐのであれば、中央銀行が保有する国債分は「除く」必要があるのだ。
 日本でいえば、日本銀行が保有する円建て国債を「国の借金!」に含めてはならないのである。もちろん日本銀行以外が保有する国債にしても、多くは借り換えされるため、返済の必要はほぼないが、建前上は「償還する負債」として計上されている。改めて、財政健全化の定義は「政府の負債対GDP比率」の引き下げであり、政府の負債返済でもPB黒字化でもない。そして、政府の負債には、
 (1)日本政府の負債総額
 (2)日本銀行が保有する国債等を除く政府の負債額
 の2種類があるのだ。
 2つの定義に基づき、日本政府の負債対GDP比率の推移をグラフ化した(※本誌参照)。

 本稿では、政府の負債=国債+財投債+国庫短期証券と定義している。確かに、総額で見ると、日本政府の負債対GDP比率は上昇が続いている。とはいえ、日本銀行が保有する国債を除くと、何しろ量的緩和政策(日銀の国債買取)が継続されているため、政府の負債対GDP比率は下がり続けているのだ。'16年度の時点で102%にまで低下しているため、'17年度には100%を切っただろう('17年度のGDP統計はいまだ発表になっていない)。
 財政健全化云々の議論をするのであれば、下記のグラフ(※本誌参照)のごとく「数字」「データ」「ロジック」で議論しなければならない。抽象的な「市場の信認」云々で語ってはならないのだ。

 4月3日、日本銀行の黒田東彦総裁は、衆議院の財務金融委員会において、政府債務残高が「極めて高い水準」にあり、
 「政府が中長期的な財政再建、財政健全化について市場の信認をしっかりと確保することが極めて重要」
 と、指摘した。
 黒田総裁が「極めて高い水準」と表現している以上、もちろん「政府の子会社」である日本銀行が保有する国債まで「政府債務残高」に含めているわけだ。返済の必要がない負債までをも「債務残高」に突っ込み、総額のみを強調することで危機感をあおる。財務省(黒田総裁は元財務官)のやり口は、20年以上前から全く変わっていない。
 しかも、黒田総裁の言う「市場の信認」とは一体全体、何のことなのだろうか。金利のことなのか。金利であるならば、長期金利0.027%(本稿執筆時点)の日本は、市場の信認がありすぎる、という話になってしまう。

 「市場の信認」といった抽象論で日銀総裁が「財政」を語り、そして政治家や国民がほとんど誰も疑問に思わない。わが国はダメな方向で「驚くべき国」である。財政に限らず、経済、歴史などなど、すべてにおいて具体的な議論ができない。国会においてまで、抽象論ばかりが幅を利かせ、政策を間違え、小国化しているのが、わが国の現実だ。
 せめて、日本経済の根本的問題である「財政」や「デフレーション」についてだけでも、抽象的な議論を排さなければならない。具体論で情報を共有し、「日本に財政問題は存在しない」ことを国民と政治家が早急に理解しない限り、わが国に繁栄の未来はない。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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