昨年まで6年間を過ごしたソフトバンクでは大器として期待されながらも、満足な結果を残せなかった。2016年のドラフトで5球団の競合の末にソフトバンクにドラフト1位で入団。しかし、大学時代より悩まされていた肩の故障により、ルーキー時は2、3軍での調整の日々が続いた。2年目では開幕1軍、プロ初登板を果たすも夏を待たずに2軍行き。プロの厳しさを味わい、さらにコンディション不良にも苦しんだ。
3年目以降も毎年のように肩、肘の不調を訴え、「リハビリ組」として過ごす時期もあるなど、1軍のマウンドは遠のくばかり。シーズンを通して戦力となることが出来ないまま時間が過ぎ、ドラフト時の輝きはとうに消えていた。
今年1月、その名前が久々に大々的にメディアで伝えられることに。FAでソフトバンクに移籍した近藤健介の人的補償として、田中を日本ハムが獲得したことが発表された。プロ入り後の実績から見て、戦力として未知数と思われながらも、新庄剛志監督始め、日本ハム首脳陣からの信頼、そして期待は絶大だった。
新たな転機を迎えた28歳は、新天地で順調に結果を残し続けてきている。5月に入ってもセットアッパー、そしてクローザーの役割を担っており、涙の初セーブから間もなく、5月7日の楽天戦では待望のプロ初勝利も手にした。2対2の同点で迎えた9回に登板して、打者三人を全て三振に斬って獲ると、その裏に上川畑大悟のサヨナラ安打が飛び出すという劇的な幕切れとなり、この日もエスコンフィールドは歓喜に包まれることとなった。
そして試合後、ヒーローインタビューの場では「チームとしていい流れが来ている。自分もその流れに乗っていきたい」と静かな口調で意気込みを語っている。その言葉は自信に満ち溢れており、遅れてきた「大器」がさらに大仕事をやってのける、そんな予感さえ抱かせていた。(佐藤文孝)