ゆっくりとグラウンド中央に集まり、高津臣吾監督ら首脳陣も後から歩いて出てきた。体をぶつけ合うようにして喜ぶのではなく、“適度な距離”を保ちながら、ちょっと遠慮ぎみに胴上げが始まった。
コロナ禍、オリンピック・ブレイク…。今季が特異なシーズンであったことを再認識させられた“大団円”となった。
「高津監督に謝らなければ。シーズンが始まる前の順位予想で、解説者のほとんどがヤクルトを最下位にしていました」
複数のプロ野球解説者がそんなことを口にしていた。
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順位予想を覆した“高津采配”について聞いてみると、4番・村上宗隆の成長を挙げる声が返ってきた。
「打順編成が巧い。簡単なことなんだけど、気が付きそうで気付けなかったエッセンスがあって」
そのエッセンスとは、サンタナとオスナの並べ方だ。
5番・サンタナ、7番・オスナ。優勝が決まった26日の打順である。
そもそも、高津監督の悩みは「5番バッター」だった。4番・村上の後を打つ選手がしっかりしてくれなければ、村上が四球で歩かせられてしまう。サンタナ、オスナの獲得はそれを解消するためでもあったが、興味深いのは、その両外国人選手の打順の間に“別選手”を挟んできたことだ。
「数える程度ですが、両外国人選手を並べた試合もありました。主に捕手の中村悠平が両外国人選手の間に入っていました。中村は打撃では期待されていなかった『守備の人』。でも、捕手を務めているだけあって、野球をよく知っています」(プロ野球関係者)
両外国人選手を並べたら、「攻撃のサイン」が出しづらくなる。
どういう意味かと言えば、外国人選手は打撃力を買われて来日してきたのであって、彼らにもそのプライドがある。その常に打つ気満々の選手に「右方向への進塁打」「エンドラン」のサインは出せない。
そんなチームバッティングができる“小技の日本人選手”を挟んで、外国人選手が自由に打てる打順が出来上がったのだ。
「高津監督はノートを持ち歩いています。現役時代に書き留めたノートの写しだと聞いていますが」
チーム関係者の証言だ。
「野村ノート」の写しだろう。故・野村克也氏が指揮官だったころ、ヤクルトナインをミーティング漬けにしたのは有名な話。名将の教えを見直していたというよりも、自身の采配の是非をそのノートを見ながら、自問自答していたそうだ。
昨季、そして、今季前半は勝利につながらない試合も多かった。それでもチームを大きく動かすことはしなかった。恩師の教えに救われた部分も大きいが、そこから、高津監督は「ブレない」という自分流を構築してみせた。「野村ノート」にプラスアルファを加えた、それが勝因である。(スポーツライター・飯山満)