今回の日本代表の中で唯一、二度目のオリンピックを戦う選手であり、若手時より国際大会の経験も豊富だ。2008年の北京五輪、2009、2013年にはワールドベースボールクラシック(WBC)にも出場し、日本代表の「浮沈」も体に刻み込まれている。五輪という舞台で、最も頼りになる投手であると考えるのは首脳陣やファンも同じだろう。
とは言え、2021年のこれまでの成績を観る限り、決して順調とは言い難いシーズンを送っている。今年1月に日本球界復帰が決定後、NPB新シーズンへの活躍が願われるとともに、かつて成し遂げた「24勝0敗」という偉業の「再現」を期待する声さえも少なくなかった。それ故、3勝4敗(6月23日現在、以下同)という数字は、田中のポテンシャルからは程遠い内容に感じられてしまう。
また、MLBでは6年連続二桁勝利しており、通算78勝は日本人歴代3位タイ。日本復帰会見でも、再びメジャーのマウンドに登る想いがあることも語っていた。現在32歳という年齢を考えても、心身とも選手として全盛期であると信じるファンも多いはずだ。
だからこそ、五輪イヤーであり、日本復帰となる特別なシーズンである今季、一年を通して誰よりも注目され続けることも確かである中、背番号18の力強い投げっぷりを求める視線も増えていくだろう。
6月23日には西武戦に先発、6回4失点ながら、今季3勝目を挙げている。初回から失点を許すなど、苦しい内容だったものの、打線の援護もあり楽天は7回表に逆転に成功、田中にとって約2か月振りの勝ち星となった。
チームの連敗を7で止めることとなり、日米通算180勝目となったこの日の勝利は、楽天イーグルス、さらには田中将大本人にとっても、極めて大きな意味を持つ白星となった。4点を失っても投げ続けたことで、「田中のマウンド姿がチームを奮起させた」との声も強く、その影響力は、やはり期待以上のものをもたらしている。
この勝利をきっかけとして、今シーズンのペナントレース、そして東京五輪の大舞台で「神の子・マー君」がこれまで以上に躍動する姿、そしてあの投球後の激しい表情を取り戻すことを期待したい。(佐藤文孝)