広島カープに敗戦した後(6月24日)、宮本和知投手チームコーチがリモート取材に応じ、鍬原拓也投手の一軍昇格を伝えた。代わって、二軍降格となるのは同日、広島・菊池涼介にソロ本塁打を食らった古川侑利投手だという。
「いきなり、二軍降格となるほどひどいピッチングではなかったと思う」(スポーツ紙記者)
古川に対し、そんな声も聞かれた。しかし、驚いたのは“鍬原の早期昇格”の方だ。
鍬原は6月10日の練習試合(対DeNA)で先発登板のチャンスをもらったが、3回6失点と炎上した。この時点で鍬原をかばう首脳陣のコメントも多く聞かれたが、以後、一軍での実戦登板はない。
「二軍で調子の良い投手は他にもいますよ。たとえば、24日の二軍戦で先発し、7回無失点と結果を出したルーキーの太田龍(ドラフト2位)、23日にリリーフ登板して4回無失点で切り抜けた畠世周とか」(関係者)
それでも、鍬原が選ばれた理由だが、「事前決定だったのでは?」と予想する声も聞かれた。キャンプ、オープン戦で長く巨人を見たプロ野球解説者がこう言う。
「原監督の鍬原に対する期待は、本当に大きかった。練習試合で打ち込まれましたが、首脳陣の評価はむしろ高かった」
勝敗は結果論。「微調整すれば、一軍で通用する」と、首脳陣は6失点した練習試合後に確信したそうだ。
「鍬原には先発ローテーション入りを争わせてきました。昨秋キャンプで原監督自らが助言し、サイドスローに転向させました。その後、試行錯誤を重ねて、少し腕の位置を高く戻した現在の投げ方に落ち着きました。変化球、制球力アップなど色々と課題を持って取り組んでいました」(前出・プロ野球解説者)
鍬原は2017年ドラフト会議で1位指名された。「プロ通算21試合登板、1勝」はドライチに相応しくない数値。原監督は昨年、その鍬原に2年先輩にあたる15年1位の桜井俊貴を一人前に育て上げた。「次は鍬原の番」という雰囲気も昨秋キャンプからあったが、こんな指摘も聞かれた。
「補強が巧く行かないので、鍬原をなんとかしなければという状況でした。鍬原の決め球はシンカー。でも、打者二巡目からシンカーを中心とした配球だと通用しなくなる。どの先発投手もそうですが、打者一巡目、二巡目で配球パターンを代えています」(前出・同)
鍬原にはシンカーを決め球にした配球しかなかった。サイドスロー転向が決まったのと同じ頃からだが、二軍の杉内俊哉投手コーチが「小さく曲がるスライダー」を教えている。そのスライダーが試合でも決まり出せば、配球、ピッチングの幅も広がるはず。鍬原は二軍でその小さく曲がるスライダーの精度を高めていたという。
「阿部二軍監督もブルペン入りして見守っていました。細かな指導は杉内コーチらに任せていましたが、捕手出身の阿部二軍監督が見て、『鍬原は大丈夫-という報告が原監督にされたようです』(前出・関係者)
阿部二軍監督が送り出す鍬原がどこまで通用するのか…。昨季の桜井のように中継ぎでスタートし、先発ローテーション入りすることが理想だ。鍬原が打ち込まれるようなことになれば、阿部二軍監督の報告が一軍で疑われることにもなりかねない。選手を育てることだけではなく、再調整も重大な二軍監督の仕事だ。阿部二軍監督とその周りを固めている“チーム阿部”のお手並み拝見である。(スポーツライター・飯山満)