一方で、海外の新型コロナウイルスへの対応を紹介する際、成功事例としてドイツの対応を紹介するメディアは多い。日本国内のコメンテーターの意見やネット上では日本の対策を引き合いに出し、ドイツの医療体制や経済支援を称賛する声が多く見受けられる。しかし、逆にドイツ国民が称賛する日本の対策もいくつかあるようだ。
日本では新型コロナウイルスの感染が拡がる中、4月1日、早々に安倍晋三首相が布マスクを全世帯に2枚ずつ配布すると表明し、4月7日にマスクの配布が閣議決定された。配布されるマスクは俗に「アベノマスク」とも呼ばれ、日本のネット上では当時、「各国は金銭的な補償をしているのに日本はマスクだけ」という批判が相次いだ。現在もまだいわゆる「アベノマスク」が届かない家庭もあり、政府に対する批判の声は止まない。
この一連の流れはドイツでも「アベノマスク」という言葉を使って、広く報道され、日本人から批判が殺到していることも伝えられていた。だが、ニュースを知ったドイツ人の反応は意外なものだったようだ。
「自分たちで用意しろ、ではなく、マスクを政府が配るからしっかりとマスクをしてくれという日本政府の姿勢に感銘を受けたドイツ人も少なくはないようです。ドイツではマスク文化がないのに、いきなり数日後から『スーパーや公共交通機関ではマスク着用』と発表されたので、日本の対応を親切と受け取った人が多いようですね。ちなみに、スカーフで口と鼻を覆うこともマスクの代用として認められていますが、ほとんどの人がマスクを着け、スカーフを代わりにしている人はあまり見かけません」(ドイツ在住日本人)
さらに最近では、マスクの着用が新型コロナウイルスの感染拡大防止に役立つという研究結果をドイツ・マインツ大学などの研究チームが発表し、話題になっている。研究結果によると、マスク着用を義務化した地域は新型コロナウイルスの感染者数の増加が抑えられたというが、ドイツのネット上では「マスクを常につけているから日本では感染が抑えられている」「清潔なこととマスクの着用が日本を救っている」と、日本の国名を出して称賛する声が挙がっている。
「昨年末から、新型コロナウイルスが中国で流行り、その後、日本にも上陸した頃は、メディアが新型コロナウイルスのニュースを取り扱う際、アジア人の写真を使用していました。そういった事情もあり、その頃はアジア人というだけで新型コロナウイルスを連想するドイツ人は多かったですね。しかし最近では、アジアの新型コロナウイルスに対する対策も注目し始められ、アジアの中でも日本のマスク文化を紹介するメディアも多いです。そのため、今回、マスクが新型コロナウイルスの感染防止に有効だと発表された際も、アジア全体ではなく、アジアの中でも日本の名前を挙げて称賛する声が挙がったのだと思います」(前出・同)
しかし一方で、在独日本人はドイツ政府の対応を羨んでいるようだ。
先日、ドイツ政府は新型コロナウイルスの影響で打撃を受けた経済を立て直すため、7月から12月までの半年間、消費税を19パーセントから16パーセントに引き下げ、食品などに適用されている軽減税率も7パーセントから5パーセントに引き下げると発表した。ドイツではすでに全ての企業がドイツ政府の融資を受けられるなどの大規模な経済対策が行われているが、ここへ来てさらに対策を進めた形だ。
「日本のように世論はそこまで消費税の減税を叫んでいませんでした。にも関わらず、ドイツ政府は消費税減税に踏み切りました。在独日本人からは『やることが的確』『世論に押される前に動くスピード感がすごい』といった称賛の声が挙がっていました」(前出・同)
自国から見る評価と他国から見る評価は違うようだ。