一見、健常者でも実は障害を患っているケースもあるため、「座って良いのか」については意見の分かれるところ。正義感からか、健常者と思われる乗客が座っていると、「あんた席譲りなさいよ」と声を掛ける人間もいる。
そんな優先席への誤った認識が凶暴な事件を引き起こした。事件が発生したのは2018年2月。JR大阪駅を出発した環状線の車内で、優先席に座っていた34歳の男性に対し、62歳の無職男が「何座ってんねん」と声を掛けたのだ。
男性は無視をしたが、男はしつこくちょっかいを出し、降りようとした男性を妨害。振り切って降りた男性に対し、髪を引っ張る。男性は激昂し、男の頬を殴ると、反撃した男は刃渡り9.2センチのナイフを出し、男性の脇腹を刺し、立ち去った。刺された男性は全治2週間の怪我。そして、このニュースを知った男は、大正署に自首し、殺人未遂容疑で逮捕されることになった。
男はなぜこのような凶行に出たのか。取り調べに対し、男は前々から男性の行動に不満を抱いていた事を告白。男によると、被害男性はこれまでにも数回に渡り優先席に座るなどした上、割り込み乗車を数回したこともあり、その都度注意していたのだそう。そんな鬱積が爆発し、事に及んだ。
男は裁判で殺意を否定したが、裁判所は殺意を認定。懲役3年執行猶予5年を言い渡す。そして2人が遭遇しないよう、男は男性の求めに応じて住んでいた大正区から引っ越しさせられる措置が取られた。
「優先席に座っていただけで刺される」というニュースは、電車通勤者にとって衝撃的。事件後、座ることを止める健常者や、外見では障害を患っているとは思えない人々からも、「怖くて座れない」「歪んだ正義感で割りを食った」などの声が上がった。
優先席については、その運用がかなり曖昧となっており、個人で認識が微妙に異なっている。同じような事件を発生させないためにも、公共交通機関全体でしっかりとしたルールを定めてもらいたい。
文 櫻井哲夫