「米球界ではチーム総年俸がある一定の額を超えたら、メジャーリーグ機構に『贅沢税』を納めなければなりません。18年オフは複数の大型選手が同時にFAとなり、その規模は今オフ以上です。各球団は今オフに補強資金を使い切ることだけは避けたかったようです」(米国人ライター)
ダルビッシュがカブスと契約する直前だった。大リーグ選手会のクラーク専務理事が「異例の声明」を発表した。
<かなりのチームが最下位争いに熱心で、私たちの競技への誠実さを脅かしている>
春季キャンプ目前にもかかわらず、ダルビッシュなど多くの選手が所属先も決まらない状況は「おかしい」という。大物選手との交渉がここまで長期化した現状を「最下位争い」と皮肉ったのだ。
これに対し、MLB機構側も米メディアを介して反論した。
<オーナーも勝つために球団を保有し、複数年で戦略を練っている>
次のFA補強予算、他の在籍選手との兼ね合いなどを指しているようだ。まだ在籍チームが決まっていない選手もいる。イチローもその一人である。
「米選手会が訴えているのは、キャンプイン直前まで交渉期間を長引かせるのは止めてほしいということ。オーナー側の言い分も分かりますが、通常ならば、11月中か、遅くとも年内にはまとまっていたはず。今後、すべてのFA交渉を1月末までに決めるなどの取り決めを設けてほしいなど、米選手会が訴えてくる可能性も高い。米選手会と経営サイドの話し合いは、それこそ長期化です」(前出・同)
米メディアはダルビッシュのカブス入り後、検証記事も掲載していた。興味深い一報もあった。交渉が遅滞した最大の原因は、ダルビッシュ側が6年の長期契約を希望したことや、日本円にして総額180億円の大金を必要としたためとあったが、パイオニアプレス紙は「ダルビッシュ側がオプトアウト条項を希望したこともネックになった」とも伝えていた。
パイオニアプレス紙はミネソタ・ツインズの地元紙。ツインズはダルビッシュとの交渉を正式に認めていた球団で、カブスに敗れた理由として、「オプトアウト条項」を挙げていた。
オプトアウト条項とは、平たくいえば、複数年契約の途中でダルビッシュ側が「球団を移りたい」と希望したときに、それを認めるというものだ。
日本のプロ野球関係者がこう続ける。
「ダルビッシュはダラスに自宅を購入したと聞いています。自宅にいちばん近い米球団はテキサス・レンジャーズです。国内では彼のレンジャーズ帰還を予想する声もありました。ドジャースでの野球環境も気に入っていたみたいだし、最終的にドジャースに残留すると見る人もいました」
自宅購入の情報から考えると、カブスは「通勤圏」ではない。ダルビッシュとの交渉にあたった球団は、カブスと交わした「6年1億5000万ドル」に近い数字を提示したという。それでも、自宅から遠いカブスに決めたのは、オプトアウト条項にこだわったということか…。
「オプトアウト条項を持つメジャーリーガーは他にもいます。ただ、契約途中で『辞めたい』と言われたら、球団は条件面の見直しを迫られます。だから、どの球団もオプトアウト条項には抵抗があって」(前出・米国人ライター)
米選手会は、キャンプイン直前でも終わらないFA交渉に噛みついた。しかし、オプトアウト条項のことを聞くと、交渉の主導権は選手側にあって、強気な条件提示がされているようだ。これも、一流選手の特権だが…。一方で、「現役を続けられれば、年俸は二の次」という選手もいる。交渉の長期化をやめさせたいのなら、選手会側も“折れる必要”がありそうだ。